■セキュリティ対策と思われた『ふっかつのじゅもん』

 息子も操作に慣れていき、レベルを上げながらついに北西にあるガライの町までやってきた。初の遠出ともいえる。ガライの町には、ラダトームの町にはない武器と防具が売られている。

 しばらくはここを拠点にしてレベル上げとゴールド稼ぎに入り、はるか東のマイラの村へ行くのが王道パターンだ。

 ここで息子が休憩したいと言い出してきた。慣れないファミコン操作で疲れてきたのだろう。

「セーブはどこでするの?」

 息子がこちらを向いて聞いてくる。

 きたきた。この言葉を待っていたのだ。

 初代ドラクエはラダトーム城に戻り、王様から『ふっかつのじゅもん』を聞かなければならない。いわば、続きから遊ぶためのパスワードだ。息子はラダトームの町で手に入れたキメラのつばさを取り出し、王様のもとへと戻った。

 王様は快く『ふっかつのじゅもん』を教えてくれる。ここで息子は目を疑ったらしい。

「え、これってパスワード?」
「そうだよ。これは『ふっかつのじゅもん』といって、20文字のパスワードになってるよ」
「20文字!?」

 驚愕した息子は続ける。

「なんでこんなに文字数が多いの? セキュリティ対策?」

 いや、インターネットという言葉さえもない時代にそれはない。

「これを間違えないように慎重にメモするんだけど、間違ったときのショックが半端なくて。でも、逆にクリアしたときの感動は大きいんだよな」

 ひとり感慨深げに当時の思い出に浸っていると、息子がぼそっと言ってくる。

「昭和カオス」

■なぜルーラで飛べない!? 一から歩いて目的地へ向かうのにとうとう逆ギレ

 何とか『ふっかつのじゅもん』をメモして城を出たところで、息子が思い出したように言う。

「あ、“キメラのつばさ”がなくなった」
「あれ? ラダトームの町で買えない?」

 筆者も思わず聞き返す。

 不安を募らせながら道具屋に行くが、やはり売っていない。

 慌てて攻略サイトを見てみるが、なんとこの1個を使ったらマイラの村まで手に入らないらしい。息子に説明するが「もうすぐルーラを覚えるんでしょ? ならいいよ」と、あっさりOK。

 しかし、初代ドラクエのルーラは一味違う。目的地まで運んでくれないのだ。

「ええ? ルーラって城に戻るだけ? じゃあ、中断したくなったら毎回オッサンの元に帰ってメモ取って、また一から歩いていくわけ?」

 もはや王様をオッサン呼ばわりだ。

 筆者が「うん」と頷いた瞬間、息子はコントローラーを置いた——。

「いや、面倒過ぎるわ。もうムリ!」

 そう言い残し、リビングから立ち去る息子。

 画面を見ると、主人公が陽気に“カニ歩き”をずっと披露していた。やはり、平成生まれの高校生がロトの子孫になるのは難しかったか……。

 

 結論。昭和の少年たちを熱狂させたファミコン版初代ドラクエの面白さと奥ゆかしさは、令和を生きる現代っ子には微塵も通用しなかった。とはいえ、ドラクエのような名作シリーズものは最新版をプレイすると過去作にも興味が出てきてしまうもの。やはり今の時代のゲームシステムに適したリメイク版というのは、重要といえるのかもしれない。

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