■田中裕子の圧巻の演技…『ゲド戦記』で美しい魔法使い・クモが本性をあらわしていくシーン
宮崎駿氏の息子・宮崎吾朗氏が監督を務め、2006年に公開された『ゲド戦記』にも、トラウマ級のシーンがある。
物語は、国王を殺してしまったエンラッドの王子・アレンが大賢人・ハイタカと出会い、世界の均衡を崩している原因を突き止めるための旅に出るというもの。ハイタカを含め、作中には魔法使いが登場するが、そのなかで強烈な爪痕を残したのが魔法使い・クモだった。
クモは美しい女性のような姿の魔法使いだが、その本性は恐ろしいものだった。クモの目的は「永遠の命を手に入れること」で、アレンを利用して邪魔者でもあるハイタカを始末しようと目論んでいた。クモの罠にはまり、城に囚われてしまったハイタカたちを救うために乗り込むのが顔に傷がある少女・テルー。テルーの説得により正気を取り戻したアレンはともにクモと戦うが、その際、クモは本来の姿をあらわしていく。
美しい女性に見えたクモだが、実は年老いた男性の姿をしていた。体をドロドロと溶かしながら移動したり、目が大きく窪んだ闇のように変化したりとその恐ろしい姿はホラーそのもの。
そのクモの不気味さをさらに増長させたのが、声優を務めた女優・田中裕子の名演だろう。自身が絞め殺したテルーを見て「死んだ、死んだ、かわいそう…」と呟くシーンがあるのだが、壊れた機械のように同じ言葉を繰り返すクモのセリフと、田中裕子の優しい声色が不気味さを増長させ、これもまたトラウマレベルに怖いシーンだったと思う。
ジブリ作品は子どもが楽しめる作品が多いが、紹介した作品のように「トラウマを抱える」きっかけになりかねないシーンも登場する。しかし、トラウマを抱えるほど人の感情を揺さぶることができるのもジブリ作品の素晴らしさだ。
また、兵器の恐ろしさを知れたり、自然と共存していく難しさだったり……と、たくさんの教訓を学べるのもジブリ作品の魅力だろう。大人になってこれらの作品を見てみると、また違った視点で楽しむことができるかもしれない。