■少女の耳元で、彼女が囁いた最後の言葉は…「耳擦りする女」

 最後にホラー要素として「心霊」と同時に「人怖」を兼ね備えたエピソードをご紹介しよう。

 資産家・山東には一人娘のまゆみがいたが、娘のある特異体質に山東はいつも悩まされていた。まゆみはあらゆることを一人で考え、決定することができず、誰かの指示なしではパニックを起こしてしまうという体質だったのだ。山東はかねてからまゆみの付添役を何人も雇ってきたが、その質問攻めのひどさにすぐに辞めてしまう。半ば諦めかけていた山東のもとに、ある一人の女が付添人として志願してきた。

 まゆみの特異体質はとにかく異常で、どちらを選ぶべきか……なんていうレベルのものならまだしも、自分は立つべきか、座るべきか、なんていう細かいことまでを聞いてくるのだから、付添人が辞めるのもうなずけるというものである。しかし、新たに志願してきた女性は、どこか陰はあるものの、まゆみと打ち解け実にうまくやり取りができるようになる。山東もこれには一安心するのだが、案の定、付添人の女性も日に日にやつれていき、やがて幽鬼のような姿に変貌してしまう。

 このエピソードではパニック障害を起こす前後のまゆみ、そして付添人として働く前後の女性と、二人の女性の対比が氏の圧倒的画力によってまざまざと描かれている。狂ったように質問を繰り返していたまゆみはやがて落ち着きを取り戻し、可憐な美少女としてはつらつと生活をするようになる。だが一方で、彼女に付き添っていた女性は、まゆみに憑りついた怪異の如き風貌に変わってしまうのだ。笑顔で生活するまゆみの背中にぴったりと張りつき、常に耳元でなにかを囁き続ける女という、全く異なった二種の女性を共存させる一コマに、氏の画力の高さが見受けられるエピソードとなっている。

 最期に女性はあるとんでもないことを「耳擦り」するのだが……その結末はぜひ、ご自身の目で確認してほしい。

 幽霊の怖さ、怪物の怖さ、そして人の怖さと、氏の描くエピソードはどれもこれも一味違ったテイストの「恐怖」が色濃くつづられている。そのどれもが圧倒的な画力を用い、鮮明に、美しく、そしてどこか怪しく描かれているのだ。どのエピソードも実に個性的な「怪異」が登場するのは、氏の作品の何よりの魅力と言えるだろう。それらがアニメーションとして命を与えられ、動く姿を、いち早く見てみたいものである。

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