■出会ったのは救世主なのか、それとも…「黒い鳥」

 続けて紹介するのは、こちらもホラーの定番である、「異形」が登場するタイプのエピソードである。

 バードウォッチングのため山へと登っていた主人公・久米は、森の中で怪我をして動けなくなっている男・森口と出会う。保護した森口は無事に病院へと搬送されるが、彼はなんと一か月も遭難し続け、ようやく救助されたという事実を告げられる。無事生還できたことを喜ぶ久米に対し、森口はどこか怯えた表情で「頼むから、一晩ここに泊まってくれ」と懇願してきた。意味は分からないものの、ただならぬ様子に承諾する久米だったが、その晩、病室で森口に口づけする奇妙な女の姿を目撃する。

 このエピソードはなんと言っても、救出された森口の元を訪れる女の強烈なビジュアル。タイトルが指し示すように、人間の女性と「黒い鳥」を融合したような怪物がいつのまにか現れ、森口に口づけをする。その「口づけ」の意味を知ることで、森口が一か月という長い期間、遭難しながらも生き延びることができた理由を理解する。そうして一安心した矢先、女が森口を助けた「本当の意味」に気づくことで、真の恐怖に突き落とされることとなるという短編なのだ。

 人間とは異なる、思惑や意思の分からない何かを前にした恐怖。そしてホラーでありながらも、時間、時空といった少しSFの要素も感じられる、なんとも緻密なエピソードとなっている。

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