1986年に行われた「第1回楳図かずお賞」に投稿した漫画『富江』にて漫画家デビューし、今日に至るまで数多くの作品を生み出し続けてきたホラー漫画界の巨匠・伊藤潤二氏。
繊細なタッチで独創的な世界を描きつつ、見ている者を震えあがらせるような脅威、狂気、怪異を描く伊藤氏の作品。2023年よりNetflixにて「伊藤潤二マニアック」と題してアニメ化されることが決定しており、『富江』を始め、名作と名高い『首吊り気球』や、あまりにも個性的でおかしな怪奇少年をモチーフにした『双一』などの作品がラインナップされている。これまでにも映画をはじめ、『伊藤潤二コレクション』として代表的エピソードが映像化されているが、伊藤氏のファンならば誰しも「あの作品をアニメ化してほしい」という1本があるのではないだろうか。
そこで今回はこれまでアニメ化されていない“本気で怖い”伊藤潤二作品をいくつか紹介したい。
■ひたすら解剖することに憑りつかれた女の末路「解剖ちゃん」
ホラーと一口に言ってもそのジャンルは様々だが、伊藤潤二氏の作品の中でも「人怖」の要素が強いのが、この一作だろう。
主人公は、中央医科大学にて医学生として解剖の実地訓練を行う青年・鎌田。彼が解剖しようとした女性は実は生きており、医学生たちを前に「早く私を解剖して」と叫び、どこかに立ち去ってしまう。逃亡し、行方をくらましてしまう女だったが、鎌田は彼女の顔に見覚えがあった。それは幼い頃から「お医者さんごっこ」と称し、なにかを「解剖」することに憑りつかれた幼なじみの田宮ルリ子であった。
誰しもが幼少期、一度は思いつくお医者さんごっこという遊びを突き詰め、動物を解剖するということに執着していく少女・ルリ子。幼いがゆえの好奇心と無邪気さで、蛙を始め、ハムスターを解剖し、やがてもっと大きなものを解剖したいと増長しはじめる部分に、徐々に狂っていく人間に対するおぞましさ、恐怖というものを垣間見ることができるエピソードだ。
ラスト、年老いたルリ子と鎌田はわけあって再会を果たすのだが、その際、彼女が辿り着いたあるおどろおどろしい姿にも、驚愕、恐怖すること請け合いのエピソードである。