■幼い弟と妹を残し、大西洋へと落下していく衝撃的な結末
一年戦争の罪深さを語る意味で象徴的な存在だったのが、ミハル・ラトキエではないだろうか。彼女は貧しい民間人で、幼い弟と妹を養うためにやむなくスパイ活動に手を染めた。ジオンの諜報員としてホワイトベースに潜入するが、顔見知りのカイ・シデンに発見されてしまう。
ミハルがスパイだと気づきながらも匿ったカイ。そのミハルもホワイトベースの艦内に幼い子どもたちがいることを知り、良心の呵責に苛まれる。そして情報を売った罪滅ぼしのために手伝いを申し出たミハルは、カイの乗るガンペリーで一緒に出撃する。
ミハルは対潜ミサイルを発射する役割をカイに任されるが、電気回路に不具合が発生。ハッチからの手動発射を試みたものの、発射時に巻き起こった強い風に体を吹き飛ばされ、ミハルの体ははるか上空から大西洋へと落下していった……。
ミハルが死に際に放ったミサイルは敵機に命中。彼女が落下したことに気づいていないカイが、むじゃきに撃破を喜んでいたのが何とも切ない。いろんな意味で戦争のむごさと虚しさを感じ、無情にも大西洋に落ちていくミハルの姿にゾッとさせられたシーンだった。
■何が起こったかを知るとより恐ろしい、アニメ冒頭で何度も見たシーン
コロニー落としとは、スペースコロニーを巨大な弾頭に見立てた質量兵器として、目標地点に落下させて広範囲に壊滅的な打撃を与える恐ろしい攻撃。ファーストガンダムの冒頭で流れるコロニー落としのシーンは、「ブリティッシュ作戦」の一環で実行されたものだ。
本来の狙いは、連邦軍本部のあるジャブローだったが、連邦軍の必死の抵抗によりコロニーは大気圏に突入した約40分後に崩壊。崩壊したコロニーの前端部分がオーストラリアのシドニーに落ち、厚さ10キロの地殻を貫通して、マグニチュード9.5の大地震を引き起こした。
コロニー落としの2次被害として衝撃波や津波、気象変動などが発生し、人的被害は23億人にも及んだとされており、その後も長年にわたって地球全体に甚大な悪影響を及ぼし続けた。
テレビアニメ『機動戦士ガンダム』の冒頭では、「人々は自らの行為に恐怖した」というナレーションとともに、そのコロニー落としのシーンが流れるが、まさに人類を絶望の淵へと追いやった恐るべき非人道的行為だ。もし現実でこのような凶行が行われたらと考えると、本当にゾッとする。
以上、『機動戦士ガンダム』の忘れられない「ゾッとしたシーン」を紹介してきた。ガンダムシリーズはいずれも戦争を背景に描かれた作品なので凄惨な描写はつきものではあるが、ファーストガンダムはとくに戦争のリアルさや生々しい雰囲気が色濃い気がする。子どもの頃に見てよく覚えていないという方も、これを機にあらためて見直してみるのもよいかもしれない。