■山王ファンすら味方にした桜木花道のガッツあふれるプレー

 インターハイ2回戦、湘北は高校バスケ王者の強豪校・山王工業と対戦する。インターハイ3連覇を成し遂げた絶対王者・山王と、全国的には無名である湘北の戦いということで、試合会場は湘北にとって完全アウェーな状態から試合はスタートする。

 しかし、一時は大差をつけられながらもジリジリと驚異の追い上げを見せる湘北の姿に、次第に観客の見る目は変わっていく。

 そんな中、会場の空気を大きく変えたのが、桜木花道が見せた衝撃的なワンプレーだ。絶対に届かないと思われたルーズボールを懸命に追いかけ、来賓席のテーブルに体ごとつっこみながらボールをコートに戻したシーン。これをきっかけに、山王一色だった観客席から「いけーっ湘北!!」「湘北がんばれ!!」「あと少しだよ!!」といった声が飛び始める。

 試合前日、安西先生でさえ「観客は山王の応援にまわる」「無名の湘北が勝ってはいけないんだという雰囲気になっている」と予想していたが、それをまさかのカタチで裏切ることになった。桜木花道の体を張った全力プレーを筆頭に、絶対に勝つという湘北メンバーの信念が観客の心を大きく揺さぶったのだろう。

 バスケットでは、ほんの一瞬のプレーが試合の流れや雰囲気を左右することがある。バスケ経験がある井上雄彦氏は、そんな会場や観客の空気感まで作品の中で、見事に表現していた。今冬公開となる新作映画『THE FIRST SLAM DUNK』でも、きっとそのようなシーンが見られるはず。映画館で自分も観客の一部になったように手に汗を握り、選手たちを応援したいと思う。

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