■ラストのどんでん返しで人間のおろかさ描く『絶滅の島』
最後に紹介するのは、1980年にSF映画雑誌『スターログ』に掲載された『絶滅の島』。理由も分からぬまま無惨に殺され続ける恐怖を描いた短編だ。
主人公のシンイチたち27人が「秘島ツアー」に出かけている間、地球人はUFOの大軍に襲われ全滅させられてしまった。生き残った彼らは離島で自給自足の日々を送っていたが、そこにもとうとうUFOがあらわれ、人間狩りがはじまってしまうのだ。
わずかに残った仲間たちが次々と残酷に殺され、さらにその遺体を「煙でいぶしている」現場を目の当たりにするシンイチ。捕まった少女・カオリを救い出し逃げようとするが、UFOの化け物たちにみつかり絶体絶命の危機に。そこに違うUFOがあらわれ、シンイチたちを助けるのだが……。
私たち人間がおこなってきた過ちが、最後のページに記載された「宇宙怪物後 日本語訳」に集約されており、「絶滅の島」というタイトルの意味にゾッとする以上にハッとさせられる短編。なお同作は初出ではサイレント映画の手法をなぞってセリフなしの演出がとられている。『藤子・F・不二雄大全集 少年SF短編3』ではリメイク版と両方が収録されているので、見比べて読むのも面白い。
以上3作を紹介したが、毒っ気がたっぷり詰まった、時に読者にトラウマを与えるような藤子さんの「SF短編」には、まだまだ紹介しきれない魅力作がたくさんある。筆者が個人的に好きなのは残酷な高齢化社会を描いた『定年退食』と『カンビュセスの籤』であるが、どちらも登場人物の未来を自分に置き換えると足がすくんでしまう傑作だ。また「抱けえっ!」のコマが有名な、悲しさが詰まった「すこし・ふしぎ」な短編『ノスタル爺』も夏の終わりにピッタリな心震える作品。大ウサギの宇宙人が登場するセルフパロディのような短編『ヒョンヒョロ』も多くの人に是非読んで欲しいところだ。