■DVという言葉さえなかった時代に妻がとった行動は?『コロリころげた木の根っ子』

 次に紹介するのは、いびつな夫婦のあり方に恐怖を覚える物語『コロリころげた木の根っ子』。

 現在のように家庭でのDVやモラハラなどといった問題が取り沙汰されていなかった1974年に発表されたこの作品。出版社の若手社員である西村は、小説家・大和の家まで原稿を取りに行くことになるが、大和という男はとんでもない暴君だった。家の外にペットのカニクイ猿を出してしまったからという理由で、客の目の前にもかかわらず妻に平手打ちをし、酒ビンが空だと言っては突き飛ばし、自分の愛人を呼び出す電話まで妻に準備をさせるほどだった。

 だが、不用意に階段の上に置かれた空の酒ビンや、ガスが充満する汲み取り式トイレに置かれたタバコなど、大和の家にはところどころに怪しいものがあった。そして、小さなところに疑問を抱いた西村は、大和の妻がスクラップしていた新聞の記事を読んでギョッとすることになる……。

 自分勝手な理屈で妻を「飼いならした」と豪語し、理不尽な暴力を与え続ける夫。抑圧されて目を伏せてばかりだった妻の本性が最後の2ページに集約されており、全ての理由が分かった瞬間に思わずゾッとするだろう。

  1. 1
  2. 2
  3. 3