『藤子F不二雄 SF短篇』トラウマ作品の宝庫?「ミノタウロスの皿」「ノスタル爺」など後味の悪すぎる強烈エピソード3選の画像
てんとう虫コミックススペシャル『藤子・F・不二雄大全集 SF・異色短編』第1巻(小学館)

 もともと「SF(エスエフ)」とは「science fiction(サイエンス・フィクション)」の略だが、藤子・F・不二雄さんにとっての「SF」は「すこし・ふしぎ」というもので、『ビッグコミック』など青年漫画誌には『ドラえもん』などとはまた違った魅力を持つ「SF短編」が数多く発表された。

『藤子・F・不二雄 SF全短篇』などに収録されるこれらの作品は、社会に対する皮肉や警鐘などが込められているため、読後に何とも言えない後味の悪さを感じてしまう物語も多い。そこで今回は、筆者が特にトラウマになりそうだと感じた作品をいくつか紹介したいと思う。

■立場が変わることで価値観が逆転した世界の恐怖『ミノタウロスの皿』

 最初に紹介するのは、主人公が自分の価値観との違いに混乱した姿を描いた『ミノタウロスの皿』。SNSなどでもたびたび「とんでもないトラウマ漫画」として注目され続けた作品だ。

 宇宙船事故でイノックス星に漂着した主人公は、そこでミノアという美しい少女に助けられる。この星は地球の「牛」に似た「人類(ズン類)」が支配しており、地球人にそっくりなミノアたちは「牛(ウス)」と呼ばれる家畜であったのだ。

 ウスたちと暮らすうちにミノアに恋心を抱く主人公だが、彼女は「百年に一頭生まれるかどうか」のすぐれた肉用種のため「ミノタウロスの皿」として祝宴で食べられることが決まっていた。

 その事実を知った主人公は彼女を救おうと奔走するも、ミノア自身が「最高の名誉よ」と誇らしげで、ズン類側の有力者に訴えても話が全くかみ合わない。それどころかミノアは自分を食べる来賓たちの賛辞を聞きたいからと、首だけになっても意識が残るよう人口心肺を脳に繋ぐことを望んでいたのだ。

 諦めきれずに最後まで抵抗する主人公だが、最後はその思いも届かず……。自分の常識や価値観が全く通じない恐怖が描かれた同作だが、皮肉の効いたラスト1コマも悲しい。

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