■希望のない世界の絶望感
未来のトランクスの世界は絶望の連続である。トランクスにとって唯一頼りになる存在だった悟飯まで死亡。すでにピッコロが死んだことで、ドラゴンボールによる復活という希望も見いだせず、トランクスは地球に残された最後の戦士となってしまう。
悟飯を失ったときトランクスの年齢は14歳。この若さで到底勝てるとは思えない恐ろしい敵を相手に、孤独な戦いを強いられるのだからキツすぎる。
また作中では、あれだけ栄えていた西の都の街並みは壊滅的な被害を受け、ボロボロになった姿が描かれている。読者目線からするとトランクスやブルマを取り巻く、あまりにも救いのない絶望的な状況に、言いしれぬ悲しみがこみ上げてくる。
■元の世界は変わらないという現実
その後、ブルマの作ったタイムマシンで過去を訪れたトランクスは、悟空や悟飯たちと一緒にセルと戦って勝利をおさめる。だがこの結末で、トランクスのいた未来の世界が変わることはない。
過去に戻って生前の父・ベジータや悟空らと心を通わせたトランクスは、自分のいた元の世界の平和を取り戻すために再び未来へと戻っていく。そして立派に使命を果たした頼もしい姿には、心を打たれるものがあった。
残虐な17号と18号や完全体になる前のセルを倒したのは喜ばしいが、トランクスの世界ですでに死んでしまった自分の父やそのほかの仲間たちがよみがえるわけではないのが物悲しく、なんとも複雑な気持ちにさせられた。
このトランクスのいる世界は、一歩間違えたらこれが物語の正史にもなりえた、もう一つの未来でもある。本編では悟空の活躍で何度も世界は救われてきたが、悟空がいないだけで、あれほど凄惨かつ絶望的な未来が訪れるのかと思うと、本当に恐ろしい。
このトランクスのいた未来を、バトル漫画の王道とは真逆の“ifの世界”と捉えると、実に秀逸なエピソード構成ではないだろうか。