■マルチな活動のエネルギーはどこから
03年に、ボーカルをつとめる河井さんが中心となって結成したバンド「アーバンギャルズ」は、「都会の女の心の襞をわかりにくい言葉でそれとなく歌い上げるエレクトロフォークユニット」との肩書きでコアな人気を集めた。しりあがり寿主催のロックフェスなどにも出演し、まさに男子が憧れる「サブカルの王道」を行く。だが、河井さんははにかんでこう言った。
「00年代初頭は、まだあんな趣味みたいなことでお客さんが来てくれてたんですよね。でも、僕がサブカルの王道だっていうけど、一般的にイメージされるサブカルの人ってみうらじゅんさんとかじゃないですか。僕らは“アングラ”ですよ、強いていうならば(笑)。なんとなく遊んでいるように見えるんでしょうね。たまにテレビドラマに出て、漫画を描いてっていう……まあそれは自分でも思いますけど(笑)。アイツいいなあって思っている人はいるだろうと」
NHKの連続テレビ小説(朝ドラ)でも存在感のある役柄を演じた。
「『あまちゃん』と『半分、青い。』に出演しました。『あまちゃん』は2カットだけの出演だったんですけど、『半分、青い。』では、主人公の永野芽郁さんが憧れる売れっ子少女漫画家を演じた豊川悦司さんのアシスタント役で出ています。僕は役者としては俳優事務所に所属していて、番組のプロデューサーから、事務所あてに、確か漫画家さんがいたよねってオファーがあったんですね。番組としては、漫画家役の俳優さんの後ろに本物の漫画家がいたら面白いし、話題になるぞって感じだったかもしれないんですけど、あんまり話題にはならなかった(笑)。あと、僕は大河ドラマにも出ているんですよ。『軍師官兵衛』の太政大臣役です。僕が朝ドラと大河ドラマの両方に出ているから、大河ドラマにしか出ていない蛭子さんが嫉妬したらしい(笑)」
この秋には、松尾スズキ作・演出の舞台『ツダマンの世界』への出演も控えている。阿部サダヲ、間宮祥太朗、江口のりこ、吉田羊ら、超豪華メンバーとの共演だ。
「『ツダマンの世界』は松尾さんの脚本の執筆のお手伝いもしています。今度のお芝居は昭和初期の文豪の話なんです。史実が絡むので、それを調べたりしていますね。裏方もやって舞台に立つっていうのは、“ついでに出ますか?”ぐらいな感じで、松尾さんが気を遣ってくれたのかもしれない(笑)。このお芝居は2か月間続くので、今年はもう漫画を描かなくて済みますね(笑)」
独自の解釈で物語に深みを与え、コミカライズの名手との声も高い河井さん。俳優としても幅広い活躍を続けているが、今後の野望を聞くと「野望なんてない」と笑う。
「あんまりいろいろな欲がなくなってきていますからね。もはや生活ができればそれでいいです(笑)」
ゆるいムードで脱力感を醸しながらも次々に夢を叶えてきた。本人は謙遜するだろうが、重なった偶然は、人知れず続けてきた努力の賜物に見える。少年時代に<ここに入りたい>と願った世界にどっぷり浸かり、河井さんはこれからもサブカル界の真ん中を歩いて行く。