『ラーゲリ 収容所から来た遺書』漫画家・河井克夫さん「ここに入りたい」思いで切り開いた独自のキャリアの画像
漫画家の河井克夫さん(ふたまん+編集部撮影)
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 漫画家にして、NHK朝ドラや映画、舞台に出演する俳優。ときにミュージシャンとしてパフォーマンスを行い、テレビCMにも登場……。と、驚くほどマルチな活躍をしている河井克夫さん(53)。サブカル男子の「憧れ」をすべて体現してきたといっても過言ではないが、そんな河井さんがコミカライズを手がけた『ラーゲリ〈収容所から来た遺書〉』(文藝春秋)がAmazonでベストセラー1位(抑留・捕虜関連)を獲得するなど話題だ。

 河井さんのノンフィクションのコミカライズとしては棋士の先崎学の壮絶な闘病生活を描いた『うつ病九段』(文藝春秋)に続く2作目となる。なぜ、河井さんのコミカライズは注目を集めるのか。多才の源泉はどこにあるのか。素顔に迫った――。

■「深刻さがない」絵柄で描く、シベリア抑留生活の悲惨な実話

 河井さんのコミカライズの前作『うつ病九段』(文藝春秋)は2020年12月にNHK BSプレミアムでテレビドラマ化されて話題を呼んだ。今回の『ラーゲリ〈収容所から来た遺書〉』(文藝春秋)も、今冬に二宮和也北川景子の出演で映画化されることが決定している。

 原作は、第二次世界大戦後のシベリア抑留生活を描いた作家・辺見じゅん氏による傑作ノンフィクション(大宅賞・講談社ノンフィクション賞受賞)。強制収容所での過酷な労働と壮絶な環境のなか、仲間の遺書を日本に持ち帰ろうとした男たちの感動の実話である。

「『うつ病九段』も『ラーゲリ〈収容所から来た遺書〉』もそうなんだけど、僕の絵柄って深刻さがないというか、温度が低いでしょ。だから、悲惨な話でもするする読めるとよく言われます。以前、作家の長嶋有さんの小説のコミカライズをやったことがあって、そのときに原作を元にして漫画化する面白さに目覚めたんですね。漫画家って、みんな小説を読むと、自分の頭の中で絵を作っていると思うんですよ。それがどこまでちゃんとできるのかに挑戦する感じですね。長嶋さんは自分でプロデュースして、いろいろな漫画家に描かせているんだけど、結果的にはその漫画家の作品になるじゃないですか。長嶋さんの色が消えて、その漫画家の色になるのが面白かったんです」

 河井さんは「テキストが素材になっていく感じ」と表現し、こう続ける。

「僕が昭和初期のカルトな作家、久生十蘭の小説を原作とした『久生十蘭漫画集』(KADOKAWA)を出したのも、この作家は、以前は耽美というくくりで谷崎潤一郎なんかと同じ箱に入れられていたんだけど、僕が描くと耽美じゃないところが見えてくる。一回、耽美を外してあげると、こんなに変な作家なんだよって伝えることができたんですね。『うつ病九段』と『ラーゲリ〈収容所から来た遺書〉』もシリアスで重い話で、テキストで読むだけだったら、ああ、ツラいよねで終わっちゃうところが、絵にすると違うところが見えてくる。メインで見えている情報が外れて、別の物語が見えてくるんじゃないかと思いますね」

『うつ病九段』はうつ病を煩い将棋を指せなくなった棋士の物語。『ラーゲリ〈収容所から来た遺書〉』は、過酷で悲惨な強制収容所生活を描いた実話。確かに、どちらも読みはじめるのには覚悟がいる。

「僕自身、このコミカライズの仕事がなければ読まなかったと思いますよ(笑)。だからそういう層に届いているのかも知れない。『ラーゲリ〈収容所から来た遺書〉』は映画化されるので、二宮さんのファンが興味を持ってくれるといいんだけど。そうそう、二宮さんが演じる主人公なんですけど、漫画にするときは眼鏡を最後まで外さなかったんです。中耳炎で入院しているので、寝ているときは絶対に眼鏡を外しているはずなんだけど、無理やり掛けさせています。表情を見えなくさせているんですね。最後まで何を考えているのか分からない人にしたかったので、ずっと眼鏡は掛けたままなんです」

 自由な発想は、その半生からもうかがい知ることができる。

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