女性の魅力はさまざまだ。美しい顔や整ったプロポーションに魅力を感じる人もいれば、愛らしい笑顔としぐさにキュンとすることもあるだろう。いつもは大人しく静かな女性が、ここぞという場面でリーダーシップを見せたなら、意外な一面に思わず恋におちるのかもしれない。
一般的ではあるが「ミステリアスな魅力を持つ女性に男性は抗えない」と、女性雑誌の特集などでもたびたび取り上げられているが、漫画・アニメでもミステリアスなキャラは多く、『銀河鉄道999』のメーテルをはじめとして、『×××HOLiC』の侑子などは多くが謎に包まれたまま意味深な言葉で主人公を導いていた。
さらに、彼女たちのなかには特別な能力を秘め者も少なくはない。『コブラ』の相棒として活躍するレディは「生命金属(ライブメタル)」で作られた強靭なボディを持つアーマロイドだが、後に判明する彼女の正体は驚愕なものである。『聖闘士星矢』の魔鈴は女性ながら鷲星座の白銀聖闘士であること以外は全てが謎で、最後まで仮面の下の素顔を知る者はいなかった。
ジャンプ黄金時代と呼ばれた1985年~1995年頃には、そんな女性キャラが多いような気がする。そこで今回は、筆者の心に残る「特殊な能力で戦うミステリアスな女性」を振り返りたいと思う。
■「わたし残酷ですわよ」メイクで最強の暗殺者へと変わる少女『ゴージャス・アイリン』
たった2編の読切ながら、当時の読者に強烈なインパクトを与えたクライム・アクション『ゴージャス・アイリン』。本作は荒木飛呂彦氏の初期短編作で、後の代表作『ジョジョの奇妙な冒険』の布石のひとつとも言われる作品だ。
主人公のアイリン・ラポーナは暗殺者一族の末裔であった。普段は人を疑うことを知らない純粋な少女であるアイリンは、近所の悪ガキにだまされてもそれを鵜呑みにするほどであった。ところが、そんな彼女の顔に涙のような泥がつくと突然泣き出すのだ。実は、アイリンは「暗示にかかりやすい」体質のため、顔に化粧(メイク)を施すだけで自身の肉体や精神に大きな影響を与えてしまう。このときも顔についた泥が「涙の形」をしていたことで暗示にかかり、勝手に髪の毛がほどけるほどの肉体的変化を伴い「悲しみ」の涙を流していたのだ。
アイリンの暗殺能力はメイクによる自身の肉体変化の他に、心理的効果でターゲットを倒してしまうものであった。例えば、大女・ローパーの屋敷に潜り込んだ際には、アイリンは化粧の力でしわくちゃな老婆の姿へとまさに“なりきって”しまう。殺しの際には「戦いのメイク」で美しくすぐれた肉体となり、ローパーの硬質ガムをよけながら巨大チェーンソーを素手で受け止め驚愕させた。さらに、ダンスや香水の匂いなどでターゲットに催眠術をかけ自滅させる「死の舞踏(ダンス・マカブル)」により、ローパーは手にしたチェーンソーでアイリンが示した通りに自身を切断してしまう苛烈な殺され方である。
そんなアイリンは自身を裏切った依頼者を許したり、スターを目指す青年に幸福を呼び寄せるなど、暗殺者の姿とは対照的に天使のような女性でもあるのだ。