3大小中学生向けとして多くの読者に愛されてきた少女漫画雑誌『なかよし』(講談社)、『りぼん』(集英社)、『ちゃお』(小学館)。どれも絵柄がかわいらしく、恋に学校生活、ファンタジーにギャグなど、少女たちの憧れや好きがつまった月刊誌だ。
しかし、同誌の魅力はそれだけではない。それぞれの雑誌には、夏や冬の時期になるとホラー漫画中心の増刊号の発売や、別冊の付録がつくことがある。子どもはホラーが好きなもの。怖いもの見たさで手に取ったものの、中にはとてつもないほど恐ろい内容の漫画もあり、大人になっても忘れられないぐらいの恐怖体験をしたという読者も少なくないのではないだろうか。
今回はそんな「少女漫画誌発」の傑作トラウマホラーを紹介したい。
■数ページでインパクトを残す伝説のホラー作品
まずは、『なかよし』で『闇は集う』などのミステリー・ホラー作品を連載していた松本洋子氏の短編「にんじん大好き!」。これは『なかよし』1993年3月号の別冊付録「魔物語」に掲載された13ページほどの短編だが、その恐怖度はかなりものだった。
同作は、にんじんが嫌いで食べられない少年・たかしが、神様に「にんじんが好きになるようにしてください」と願ったことで翌日から全ての食べ物がにんじんに見えるようになるという話。ハンバーグ味のにんじんやパンの味のにんじんを食べるうちに、いつの間にか本物のにんじんも食べられるようになったたかし少年だが、ここで終わればハッピーエンドだが、そうはいかない。
この短編は終始ほんわかした絵柄で、たかし少年のかわいらしい視点から話が進むが、終盤で道行く子犬やパパまでがにんじんに見えるようになってしまう。そして、翌朝たかし少年を起こしにきてくれたママを「美味しそうなにんじん」だと勘違いしてまったことで……。ラスト1コマの描写がかなりのエグさで、思い出すたびに後味の悪い恐怖に襲われる。
この号の付録には4編の短編が収録されており、いずれも傑作ぞろい。特に「にんじん大好き!」は、少女漫画ホラーの中でも根強い人気を持つ作品だ。
同じく『なかよし』で筆者がいっとう怖く感じたのは、1996年夏の別冊付録に収録されたホラー漫画の女王・犬木加奈子氏による読み切り作品「三途の川」だ。
これは、「生きてたってちっとも楽しかない」という死んだばかりの少女が、天国に行くために三途の川を渡ろうとするが、向こう岸に渡れずどんどん下流に流されていく。その途中で転生のために身体の皮がめくれていく……というストーリー。
同作はラストに至るまで、ずっと見た目のインパクトがものすごい作品。それでいてたった8ページながら構成がしっかりしていて、展開や設定のうまさに驚かされる。死んでも絶望しかないのだと幼いながらに言いようのない恐怖を感じたものだ。