■『鎌倉殿の13人』に教えられている
しかし、監督の作品は多くの後進の作り手に影響を与えているのは間違いない。
「そもそも人徳がないので、薫陶、影響を与えるというのは、無理なんです。平気で大きい声で人を叱りますし、生まれからして、そういう人間にはなれない。やはりこの歳になるとおじいちゃんになる(笑)。
自分のことをあたり前に映画1本分の物量で、全てを語ることができる作り手や監督でありたいと思うんだけれども、始めると欲が出るんでしょうね。コンパクトにまとめることができないという点においても、能力に欠陥があるとは思います。そして、映画1本で悦に入れる監督でありたいということも言っておきます。また、基本的に“映画”を知らないからだろうなとも」
では監督は、最近どんな作品がお好きなのか。
「まず、やることをやっていない映画が嫌いなんです。恋愛映画ならやるべきことがあるでしょう。あとは、もっとスペクタクルでなくちゃいけないんだとか。戦闘シーンが入っていなければ、映画じゃないよねと思いながら、好きなものを入れて作品を作ってきました。でも、それだけが劇じゃないんだってことを、最近NHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に教えられています。
合戦シーンがほとんどないの?って最初は驚いたんです。なのに、これが面白い。演出陣もよくあのシナリオを追いかけていると感心しています。シーンが変わると、衣裳や美術を転換して、時間経過を表しているのですが、劇を作るというのは、リアリズムを追いかけることじゃないとそこかしこで実践している。何をするかしないか。裏切るか裏切らないか。それを描くことが劇なんですよね」
さまざまなエンタメから刺激を受けて、今なお自分を磨き続ける富野監督。まさに「全身監督」として研ぎ澄まされている本作を拝見し、次回作が気になる我々にこんな言葉をくださった。
「そもそもディズニーの映画なんて、営業のくちばしが出ているような映画で、嫌悪があった。しかし、僕にもありがたいことに孫がいて、その孫と最近ディズニーの初期のショート・ショートを観たのですが、これが最近の日本のアニメ映画より明らかに面白い。つまり、1933年の『三匹の子ぶた』でいいんです。全部手書きで、やはりこれのほうがビビッドだよね、と感じるわけです。動物たちがさまざまに動いている場面なんて、息を飲む。この楽しさを忘れているのはマズい。だからこのアニメ以後、もっと手触りのあることをやりたいんです。なので、『G-レコ』も50年くらいはご愛顧のほどをお願いします」
(聞き手/志田英邦)