■無名の湘北に贈られた「熱すぎるエール」

 インターハイ2回戦、早くも高校バスケ界の頂点に君臨する「山王工業」と対戦した湘北。観客席のほとんどが山王工業を応援するファンで埋め尽くされ、全国的には無名である湘北にとって完全にアウェーな状況だった。

 2点差をつけてなんとか前半を折り返せたものの、後半から山王の隙のないオールコートゾーンプレスが湘北を苦しめる。さらにエース沢北のすさまじい活躍もあり、一時20点以上もの大差をつけられた。

 だが湘北は諦めず、驚異の粘りを見せる。王者・山王との点差を少しずつ縮め、残り時間1分で5点差にまで追撃。ケガをしながら出場を志願した花道がコートに戻ると、湘北のメンバーは「ダンコ勝つ」「来いや山王!!」と闘志むき出しで吠えた。

 その湘北の信じられない頑張りに魅了された観客たちは、ついに湘北の応援に転じる。会場を二分する声援が飛び交う中、プレス席にいた一人の男性は「ここまでくれば見てみたいですよ、僕も……」「歴史が変わるところを…!!」と素直な気持ちをつぶやいた。

 山王一色だった会場の雰囲気を一変させた湘北の奮闘。そんな観客の気持ちを代弁するかのような、プレス席の男性の何気ない言葉が忘れられない。


『スラムダンク』では選手同士のやりとりだけでなく、会場にいる観客の心情まで丁寧に描かれているのも醍醐味の1つだ。観客席からの応援が背中を押し、選手の力になる瞬間がどんなスポーツにもあると思う。その場にいる観客になった気持ちで読み返してみると、また違った感覚で作品を楽しめるかもしれない。

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