野田サトル氏の漫画『ゴールデンカムイ』のコミックス最終巻となる第31巻が、7月19日に発売となった。2014年から『週刊ヤングジャンプ』で連載された同作は、“不死身の杉元”の異名を持つ元軍人の杉元佐一とアイヌの少女アシㇼパを中心とした登場人物たちが、金塊をめぐりサバイバルバトルを繰り広げる姿を描いた物語。
全31巻を振り返り、本作の魅力のひとつとして挙げたいのが、迫力たっぷりの戦闘シーンだろう。強いキャラクターたちが全力でぶつかり合う展開に、一体どちらが勝つのか、手に汗にぎりながらページを読み進めた読者は多いはず。物語の半ばで倒れたものも少なくなかった同作だが、今回はそんな『ゴールデンカムイ』の名キャラたちによる「不利な状況を乗り越えた」シーンを選んで振り返りたいと思う。
■最後の侍・土方がみせた鮮やかな立ち回り
まずは、土方歳三が“縛り”のある戦闘中に見せたかっこよすぎる戦術について。史実では函館戦争で死亡した土方だが、本作では網走監獄の囚人としてひっそり生きているという設定になっている。かなり高齢だがそれを感じさせない身体能力と精神力を持ち、「鬼の副長」の名にふさわしい戦いぶりを見せる。
彼の見せ場は多々あったが、その中でも特に印象深いのがコミックス14巻の第135話、網走監獄の典獄である犬童四郎助との戦闘で見せた立ち回りだ。犬童は函館戦争にて兄を亡くしており、土方に復讐するという計画を常々あたためていた。そんな彼は網走監獄襲撃の際、混乱に乗じて土方をおびき寄せ「チェーン・デスマッチ」を強制的に開始する。これは互いを鎖の長い手錠でつなぐという、日本のプロレスでも採用されている試合形式のひとつである。
土方は戦闘中、左腕に深い傷を負ってしまった。かなりの出血量で、余裕の犬童に対し劣勢に立たされたように見えるのだが、土方はここから鮮やかな形勢逆転をしてみせる。なんと彼は、背後に隠した左手を受け皿のようにして、自身の腕から滴り落ちる血を貯めていた。その血を犬童の目にぶちまけ、相手の視界を奪ったのである。そして力強い太刀さばきで犬童を完膚なきまでに叩きのめした。
不意打ちや不利な状況にも動じることなく、どこまでも冷静な判断で最善手を打つ彼の姿は、まさに「最後の侍」にふさわしいものだった。