■「転調」と「歌詞のズレ」でのタイムリープの再現

 ヒゲダンが見事に描いたアニメの世界はほかにもある。それが2021年に放送されたアニメ『東京リベンジャーズ』の主題歌「CryBaby」。

『東京リベンジャーズ』は、かつての恋人が死んだ事件を知ったフリーターの主人公・花垣武道が、中学生時代にタイプリープして恋人の死を免れるために何度も過去をやり直すという物語。その中で、武道の所属する「東京卍會(トーマン)」とほかの暴走族チームとの抗争が描かれており、令和のヤンキー作品として注目を集めた作品でもある。

「CryBaby」は、これからチームの抗争が始まるかのような厳かなイントロから始まる楽曲。主人公たちが戦い(ケンカ)に敗れるシーンを描いたような歌詞でスタートするが、これがサビの最後で「リベンジ」というアニメタイトルを連想させる単語で締められ、そして2番でまた、まるで1番の頭に戻ったかのように似たような作りのフレーズが歌われるのだ。

 これが作中で武道が何度も過去をやり直していることをモチーフにしているのは間違いないだろう。しかし2番はすぐに「お前の隣には立てないから」という歌詞がメロディからこぼれ、明らかに1番とは異なった世界線になったことが分かる作り。内容も異なっていき、心の弱さがありながらも相手に立ち向かっていくものに。まるで『東京リベンジャーズ』の内容のように過去の失敗をやり直しているような歌詞構成になっているのだ。

 そしてこの曲のすごさはなんと言っても転調の多さだろう。サビの途中でぐにゃっと世界が曲がるように行われる転調が、まるで主人公・武道のタイムリープのように聞こえる仕組みになっているのだ。『東京リベンジャーズ』公式サイトで行われた原作者・和久井健氏とのOfficial髭男dismのボーカル・藤原聡の対談によると、この転調はピアノのミスタッチから偶然に生まれたものなのだとか。ただそれが作品テーマである「タイムリープ」のように聞こえたため、「音楽の神様からのギフト」として曲に採用されたとか。

 結果的にポップさと複雑なコード進行が盛り込まれた楽曲となった「CryBaby」。対談で藤原はアプリで最新話を読むほど同作にハマっていると明かしているが、その作品への深い理解がなければピアノのミスタッチも拾われなかったかもしれない。

 このほかにもヒゲダンのタイアップ曲はいくつもある。『CryBaby』のような熱さを感じるのはテレビアニメ『火ノ丸相撲』のオープニング主題歌「FIRE GROUND」。曲全体を通してズンズンと心に響く重量感のあるメロディが題材の相撲らしさもある。

 恵まれた体格を持たなかった主人公が、それでも誰よりも強く崇高な精神を持って目の前の相手と戦っていく熱さを感じる、夏にもぴったりな曲だ。

 また映画『HELLO WORLD』の主題歌「イエスタデイ」も、映画をさらに楽しめる主題歌。これは未来からきた自分に、自分の住む世界が仮想世界として再現された過去の世界だと告げられるところから始まる。ネタバレになってしまうので詳細は省くが、「この物語(セカイ)は、ラスト1秒でひっくり返る――」というキャッチフレーズが印象的な映画だ。

「イエスタデイ」はさわやかなメロディに反して、歌詞は前向きなようで全編を通して影がある。「悪者は僕だけでいい」という歌詞が痛々しい。

 ヒゲダンの演奏力の高さや作品内容が反映された歌詞の組み立て、数々の技巧を凝らして生み出した芸術ともいえる曲は、アニメの世界観をさらに鮮やかなものにしている。次回のタイアップ作品も楽しみでならない。

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