■最期まで“人間らしく”生きようとした「ヴァン・ホーエンハイム」
続いてはエドとアルの父親であるヴァン・ホーエンハイム。息子たちと同じく金色の髪と目を持ち、スーツと眼鏡という紳士然とした装いが特徴である。全体的にゴツい見た目で表情も暗いため一見近寄りがたいが、意外と中身はおちゃめなおじさんというギャップも魅力の1つだ。
実は紀元前に滅亡したクセルクセスの民の生き残りで、かつて「お父様」の策略によって賢者の石と魂を融合させられた。そのため「人間の形をした賢者の石」とでもいうべき存在になっており、何千年も生き続けている。
しかしホーエンハイムは、そんな人外じみた体になろうとも、けして人間らしさを捨てようとはしなかった。彼の中には賢者の石の元となった53万6329人の魂が眠っているが、彼はそのすべてを対等な人間ととらえ、忍耐強く対話を重ねてきた。それぞれの名前をしっかり覚え、「やさしく思いやりのある娘だ」「学者になる夢を持ってた」などと語る彼の姿には、思わず胸を打たれてしまう。
彼が人間として生き、死ぬことにこだわったのには、妻トリシャや息子たちの存在も大きく関係している。作中にはアルを馬鹿にされて怒りをあらわにするシーンや、身を挺してエドをかばうシーンなども出てくる。家族への愛に突き動かされて戦う彼の姿は、カッコいいとしか言いようがない。
■小心者だが正しさを貫いた錬金術師「ティム・マルコー」
最後に紹介するのは、田舎で逃亡生活を送っていたティム・マルコー。生体錬成を専門とする錬金術師で、かつては軍に所属し、生きた人間を使って賢者の石を作る実験を行っていた人物である。
基本的に気が弱く命令に逆らえないタイプで、実験も脅されて無理やり参加させられていた。そして最終的には罪の意識に耐えかねて脱走……とやや情けなく思える彼だが、物語が進むごとにホムンクルスの計画をつぶすために活躍することになる。
マルコー最大の見せ場といえば、ホムンクルスのエンヴィーとの戦闘シーン。一緒に行動していたスカーやメイとともにエンヴィーを罠にはめることに成功するが、怒り狂った相手に捕らわれてしまう。
執拗な攻撃を受け、ボロボロになっていくマルコー。しかし彼はそんな状況でも諦めず、賢者の石を破壊してエンヴィーを弱体化させることに成功する。「(賢者の石の)作り方を知っているという事は壊し方も知っているという事だ!!!」と叫ぶ姿は、逃げ回るばかりだった以前の彼とはまるで別人に見えた。
そもそも彼が非人道的な実験に参加していたのは、優しすぎる性格ゆえのこと。逃亡生活中ですら町医者として人々を助けていたのだから、小心者とはいえ「人を助けたい」という信念が強いのは間違いない。仲間とともに過ごすうちに、ようやく戦うことを決意したマルコーは、優しさと同時に強さも兼ね備えたカッコ良すぎるおじさんへと変貌したのである。
カッコいいおじさんの活躍が目立つ『鋼の錬金術師』。今回紹介した以外にも、筋肉モリモリだったり、物憂げだったり、さまざまなタイプのイケおじが登場する。あらためて作品を読み返す際には、エドたちのような若々しい少年だけでなく、酸いも甘いも知り尽くした、おじさんたちに注目してみてはいかがだろうか。