荒川弘氏による『鋼の錬金術師』は、2001年から2010年にかけて『月刊少年ガンガン』にて連載されていたダークファンタジー漫画。とある過ちがきっかけで体を失った若き錬金術師・エルリック兄弟の冒険が描かれている。
主人公のエルリック兄弟(エドワード&アルフォンス)は10代の少年だが、作者の荒川弘氏が「オッサンキャラを描くのが好き」と公言している通り、本作には魅力的なおじさんがたくさん登場する。そこで今回は個人的に気に入っているおじさんキャラの魅力や名シーンについて紹介していこう。
※以下には、コミック『鋼の錬金術師』の一部内容が含まれています。ストーリーを解説するのが本記事の主目的ではありませんが、漫画およびアニメをまだご覧になっていない方、意図せぬネタバレが気になる方はご注意ください。
■「王」の名にふさわしい風格の持ち主「キング・ブラッドレイ」
まず紹介したいのは、アメストリス国軍の大総統であるキング・ブラッドレイ。オールバックにした黒髪と立派な口ひげ、眼帯が特徴のイカツイおじさんである。60歳とは思えない鍛え抜かれた肉体と、軍事政権のトップにふさわしい風格を兼ね備えている。
とくに戦闘能力は非常に高く、自ら前線に立って戦うこともしばしば。華麗な剣(サーベル)さばきには思わず惚れ惚れしてしまうほどだ。
その正体は憤怒のホムンクルス「ラース」である。もとは人間だが、数多く存在する「大総統候補」の1人として育てられ、選ばれし者として賢者の石を注入されたという背景を持つ。
そんなブラッドレイの魅力といえば、何事にも動じず、すべてを掌握しているかのような圧倒的ラスボス感。ロイ・マスタング大佐が自身の正体に気づいた際もまったく動じないどころか、彼の部下のホークアイを自身の側近に命じるなどして、逆に脅しをかけてみせた。とにかく恐ろしく、底知れない男なのである。
そんな彼のブレなさは最期の瞬間まで変わらない。スカーとの戦いに敗れ、倒れた彼は、その場に現れたランファンから言い残すことはないかと問われ、「無い!!」と即答する。愛する者、たとえば妻に言い残すことはないかと問われても、「私とあれの間に余計な遺言など要らぬ」と突っぱねてみせるのだ。自分の生きざまを貫こうとする決然とした態度は、敵でありながら心に刺さった。