■ずっとそばで寄り添った心優しき“母”の言葉

『ハンター×ハンター』の主人公・ゴン=フリークスの育ての親であるミト。そこまで出番の多くない彼女の魅力にも最近気づかされた。

 純粋でまっすぐなゴンを見ていれば、彼を育てあげたミトの素晴らしさが必然的に分かる。そのゴンが「ミトおばさんが教えてくれたオレの好きな言葉なんだ」と語っていたのが、「その人を知りたければその人が何に対して怒りを感じるかを知れ」という言葉だ。

 何に対して怒りを感じるか知るためには、それだけ相手のことを深く学び、真剣に向き合わないといけない。まだ幼かったゴンに対し、ミトはこの言葉によって人間関係の築き方を教えたのだろう。それに、ゴンもその意味をしっかり受けとめたからこそ、「オレの好きな言葉なんだ」と言えたに違いない。

 ゴンが帰ってきたときには、精一杯のご馳走を用意して愛情を示してくれるミト。そのとき一緒にゴンの故郷にやってきたキルアは「ミトさんみてーな母親がよかったなァ」とつぶやくと、ゴンは「最高だよ」「ちょっと口うるさいけど」と即答している。たとえ生みの親ではなくても、ゴンにここまで言ってもらえるミトは幸せだし、素晴らしい母親なのは言うまでもない。

■赤子を置いて冒険に出た父親が見せた大きな夢

 最後に紹介するのは『ハンター×ハンター』のゴンの父親であるジン=フリークスだ。ハンターになるために故郷のくじら島を出たジンは、10年ぶりに帰郷。そのとき連れていた赤ん坊のゴンを実家に預けて再び島を出ると、それっきり戻っていない。最初読んだときに抱いたのは、無責任な父親という印象だった。

 しかし、結果的にゴンは父親のジンに会うために同じハンターの道を志す。それが叶ったのはハンター協会の会長総選挙の投票会場だが、再度世界樹のてっぺんでゴンとジンはしっかりと再会を果たした。

 世界樹の上で親子が語り合う、このときのシーンをあらためて見ると感慨深い。その中でジンは、「オレがほしいものは今も昔も変わらない」「目の前にない『何か』だ」とゴンに語る。

 そして“外”の世界に行くために必要なものを集めるというジンは、まだ出発に必要なものが何も手に入っていないが、「別に急いでいない」「道中を楽しんでる最中だ」とも言った。

 そのうえでゴンに「もしお前の行き先が将来オレと重なるようなら道草を楽しめ、大いにな」「ほしいものより大切なものがきっとそっちにころがってる」と伝えている。そのときのゴンの希望に満ちあふれた表情を見れば、これまでのジンの生き様がしっかりと息子の道しるべとなっていることが分かる。

 たしかにジンは直接育児には参加しなかったが、息子に己の行動で生き様を示し、ゴンもそれを前向きに受け取って力強く健やかに成長した。ミトを始めとする傍で寄り添った家族の存在はもちろん大きいが、ゴンにとってジンは人生の先輩として良い影響を与えたように今なら思える。


 月日が経てば、受け手である読者の感性も少なからず変わる。手元にある古い漫画を読み返してみたら、子どもの頃に気づかなかった新しい発見があるかもしれない。

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