■「歩道を走れ」と命令された上院議員
悲惨な目にあったモブキャラでいえば、第3部の終盤に登場するフィリップス上院議員も代表格だろう。彼はエジプト旅行中に送迎用の車に乗ろうとしたところ、あろうことかジョセフと花京院を追うDIOに車をジャックされ、運転手として使われてしまう不幸なキャラクターだ。
彼の経歴は自身がモノローグで語る通り「高校・大学と成績は一番で卒業」「大学ではレスリング部のキャプテンをつとめ」「ハワイに1000坪の別荘も持っている」「25歳年下の美人モデルを妻にした」とどれも輝かしいものばかり。きっとたゆまぬ努力をして勝ち取った栄光なのだろう。最後まで「上院議員」という肩書きに誇りと執着を持つも、DIOに「歩道を走れ」と命令されて歩道を歩くエジプト市民たちを轢殺させられ、最後はジョセフらの乗った車を破壊するための飛び道具として投げつけられ、その人生に幕を閉じてしまう。
これまでの自分の人生では思いもよらない、最悪の災厄は案外このように突然起こることなのかもしれない。どんなに偉くても、頑張って生きていても温情などないのが『ジョジョ』の世界なのだということを痛感させられる。
■仗助のせいで10億円の取引を無くしてしまった会社員
最後は第4部「ダイヤモンドは砕けない」から。こちらのかわいそうな被害者たちは、命だけは助かっているものの、社会的には死と等しいほど悲惨な目に遭っている。
それは、主人公の東方仗助が噴上裕也のスタンド「ハイウェイ・スター」と戦ったときのこと。時速60キロで追跡してくるハイウェイ・スターを撒くために仗助はバイクに乗りながら康一に電話をかけようとする。
その際歩道にいた会社員から携帯を奪っているのだが、その会社員は会社の社長と電話中。しかも「これから1分後に重要な電話がかかる」「10億の取引だ、失敗は許されないんだ」と電話口で言われ、直後にかなり重要な取引が待っている様子だった。
吉岡と呼ばれたその会社員は携帯を奪われたことで10億円の取引をふいにしてしまった。この後会社で、相当肩身の狭い思いをすることになるだろう。リストラなんて未来も十分目に浮かぶ。
このときの仗助の悪行は止まらない。次は「私のこと嫌いならそのまま電話を切って」と別れ話を告げられたカップルの男性から無情にも携帯を奪った。このとき男性は電話口の相手に結婚を申し込もうとしていたのだが、仗助によって電話は切れてしまったのだから、彼らの仲はここで終わってしまったのだろう。悪気はないとはいえ、さすがに仗助の蛮行にはモヤモヤしてしまう。人生の重大イベントを台無しにされた彼らの不幸の大きさは想像に難くない。
『ジョジョ』の世界においては、やはり主役級のキャラに関わるとろくなことがないのだろうか。どうにも幸せになった一般人はかなり少ないように思う。