■『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』より百獣魔団長クロコダイン
最後に紹介したいのは、原作・三条陸氏／作画・稲田浩司氏によるバトルファンタジー漫画『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』から、獣王クロコダイン。主人公ダイたちの心強い味方として活躍するクロコダインは漢気あふれた人物であり、作中においても彼ほど“裏切り”と縁遠いキャラもいないであろう。
だが、クロコダインも“裏切って”いるのだ。
ハドラーを頂点とする六大軍にあって、クロコダインは百獣魔団団長として兵を率いていたが、ダイたちとの戦いを経た後に彼らの味方となっていた。そう、魔王軍を裏切り、勇者側へと寝返っているのだ。同様の立場でヒュンケルも魔王軍と袂をわかつものの、同族を率いて人間を襲っていたクロコダインの立場はなかなかに複雑であったに違いない。
こうしてパワーだけならハドラーを凌駕し、その巨漢から繰り出される獣王会心撃やオリハルコンを捩じ切る獣王激烈掌など、強力な技を持つクロコダインは心強い戦士としてダイたちの仲間入りを果たした。
とはいえ、勇者と関わってからクロコダインの戦績はあまりふるわない。ダイを皮切りに、ヒュンケル、フレイザード、バラン、ミストバーン、ブロック……と負けが込んだ。そのため一部ファンからは「かませ犬」など不名誉なあだ名で呼ばれることもあるという。
そんなクロコダインが最高の金星をあげたのが、対ザボエラ戦である。それまで多くの計略で他者をおとしめ、卑怯と裏切りの代名詞でもあるザボエラの逃げた先を、クロコダインだけが予見していた。
ザボエラを倒したクロコダインは、その哀れであっけない最期を見届けながら「恐ろしいものだ……欲とは……」と自戒の言葉を口にした。しかし、駆けつけたバダックが“ワシの誇るべき友人”と前置きしてから、クロコダインの高潔な精神を当然のように肯定するのだ。
一度は魔王軍を裏切りったクロコダインではあるが、バダックのような理解者がいてくれる限り、もう二度と裏切り者にはならないであろう。
近年『信長を殺した男』や『へうげもの』のように、明智光秀の新たな解釈を描いた漫画を多く目にする。もしも互いの立場が違ったのならば、“裏切り者”となったのは別の人物かもしれない。
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