■あくまで“さりげなく”がポイント

 バックヤードで走りこみをする宮城や、技の開発にいそしむ花道に、偶然そこを通りすがった感じで、ごく自然に安西先生は声をかけている。三井にいたっては、男子トイレで遭遇していた。安西先生は「奇遇な…」などと言っていたが、三井が一人になる絶妙なタイミングを見計らっていたのかもしれない。

 現代社会において、上司から「ちょっといいかな?」「時間をもらえるかな?」なんて声をかけられたら、多くの人は「何を言われるんだろう……」と身構えてしまうはず。そうなると緊張をほぐすどころの話ではない。

 相手を慮って、さりげなく手を差し伸べて寄り添う。これも安西先生の言動から学べる、人間関係を円滑にするための重要なポイントではないだろうか。そのあたりも踏まえて山王戦の開始前のシーンをあらためて読み返すと、いかに安西先生が名将であり、策士であるかがよく分かる。

 そして忘れてはいけないのは、山王戦の前日に安西先生は「全国制覇を成し遂げたいのなら」「もはや何が起きようと揺らぐことのないーー」「断固たる決意が必要なんだ!!」と、珍しく強い言葉を伝えていたこと。

 締めるところは締めて、その後のフォローは欠かさず、大きな愛情で見守る。これこそが慕われる人間の姿なのだろう。こうした安西先生の言動は、家族、友だち、恋人との人間関係、あるいは仕事絡みのつきあいなど、リアルの生活においてもおおいに参考になりそうだ。

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