■助言が必要な人、不必要な人を見極める判断力

 いつになく緊張を見せる三井寿に対しても、安西先生らしいコミュニケーションを図る。トイレで三井の隣に立った安西先生は「今、山王の先発メンバーが分かってね…」「それがSGだけ、いつもと違うらしいんだ」と声をかける。

 山王が、全国でも有名なディフェンスのスペシャリスト・一之倉聡を三井にぶつけてきたことを明かすと、安西先生は「いくら山王といえど三井寿は怖いと見える」と、その意図を分析した。

 絶対王者・山王が、三井を恐れて対策をとってきたという事実を伝えることで彼の自尊心をくすぐり、緊張から解き放つことに成功。ヘタに激励するよりも、三井にとってはるかに効果の大きい言葉だったに違いない。

 その一方で安西先生は、キャプテンである赤木剛憲に対しては様子を見に行っただけで、特別なアドバイスは送っていない。さらに流川楓に至っては、試合前に接触した描写すらなかった。

 この2人に関しては、不要な緊張もなく良い状態で試合に臨めると判断したからだろう。このように相手の性格や状況に応じて「アドバイスの必要性」を見極める判断も、安西先生に見習いたいところだ。

 ちなみに、練習時に観客の前で赤っ恥をかき「もう怖いものなどねえ」とぼやく花道に対して、安西先生は「おや、もともと君に怖いものなどあったかね?」と挑発。これで花道をその気にさせたのも、彼の性格を熟知しているがゆえだろう。

 初めて読んだ10代の頃は「なぜ自信家で怖いもの知らずの花道に声をかけたんだろう?」と不思議に思ったものだが、思い返せば花道も陵南との練習試合でガチガチに緊張したり、予選リーグでファウル過多による退場が続いて「オレって天才じゃないのかも…」と落ちこむ場面があった。意外と繊細な面も隠し持つ花道のモチベーションを保つために、安西先生は声をかけたのかもしれない。

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