■球界のスーパースターも認めた天賦の才能

 山田や岩鬼を擁する世代の明訓高校は、春・夏あわせて5回甲子園に出場し、そのうち4回優勝という偉業を達成。その山田世代の主力選手たちの多くがプロへと進む。

 運命のドラフト会議では、なんと10球団が山田太郎をドラフト1位指名。甲子園通算打率7割5分を誇る驚異の打撃と、盗塁阻止率9割という強肩が高く評価されたのは当然のことだろう。

 しかし、残る2球団が1位に指名したのが岩鬼正美だ。それも読売ジャイアンツと福岡ダイエーホークスの2チームで、当時の監督は長嶋茂雄王貞治。つまり球界を代表するレジェンドたるON砲が、山田よりも岩鬼を選ぶという展開には驚かされた。

 プロ入り後は西武の山田と争い、何度も本塁打王を獲得した岩鬼。ホークスを日本一に導き、日本シリーズではMVPも獲得。ドラフトで指名した王監督の期待にしっかりと応える活躍を見せたのもさすがといえよう。

■二刀流もこなせる驚異のポテンシャル

 圧倒的な飛距離を誇る豪快なホームランが岩鬼の持ち味だが、実は投げる方にも高い素質を秘めている。高校時代にはたいした練習もせずに先発登板し、最速158キロをマーク。プロ入り後に投手をやった際も、やはり158キロの剛速球を難なく投げこんでいた。

 球界では大谷翔平選手の二刀流が大きな話題になっているが、『ドカベン』の世界では岩鬼こそがもっとも大谷選手の二刀流に近い潜在能力の持ち主だったのかもしれない。


 かつてメジャーに挑戦した新庄剛志選手が「記録はイチローくんに任せて、記憶はボクに任せて」と発言して話題になったが、『ドカベン』では記録は三冠王を獲得した山田太郎のほうで、記憶に残るような華があったのは岩鬼正美なのかも。……とはいえ岩鬼はホームラン王を何度も獲得しているので、しっかり記録も残しているのが偉い。

 そして、ただ悪球打ちの型破りなスーパースターというだけでなく、人間的な面にこそ岩鬼正美というキャラクターの魅力が詰まっているように感じる。

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