■テキスト中心の推理ゲーム
このゲームは推理ものだから、以下ネタバレを避けつつ解説していきたい。カメさんと西本は、行く先々で「いどう」「きく」「みせる」「しらべる」「とる」などの選択を繰り返す。その際に何か重要な手がかりがあれば、選択肢にそれが表示される仕組みだ。
テキスト中心の推理ゲームの特徴として、「総当りプレイ」というものがある。とりあえず表示されている選択肢を全て試してみて、どうにかフラグを立てさせる攻略法だ。『ブルートレイン殺人事件』も、シナリオの後半まではそんな具合で何とかなるかもしれない。十津川警部シリーズらしく大人向けな要素もあったりするので、その途中で語られるドラマや人間関係を楽しむゲーム、といってもいいだろう。
そう、シナリオの後半までは。
■「さくら」と「はやぶさ」の時刻表トリック
捜査が進むうち、事件当日寝台特急さくらに乗っていた犯人はアリバイ作りのために寝台特急はやぶさに乗り換え、その車内で犯行に及んだあとにさくらへ戻ったという仮説が浮かんだ。
容疑者Aは、東京から博多まで行くためにさくらに乗っていたことは打ち明けている。つまり、「容疑者Aはどこかではやぶさに乗っていた」ことを立証しなければならない。そこではやぶさとさくらの時刻表(本物のダイヤ)を照らし合わせ、「容疑者Aはどこの駅でさくらからはやぶさに乗り換え、その後どこの駅ではやぶさからさくらに戻ったのか」をカメさんが調査する。
しかもこれは、ただの乗り換えではない。容疑者Aは犯行後、どうやらタクシーを使って別の駅(さくらの停車駅)へ移動したらしい。若干ややこしいからここで整理すると、下記のような流れになる。
「東京から寝台特急さくらに乗る」→「寝台特急はやぶさに乗り換え、犯行」→「どこかの駅ではやぶさを降り、タクシーでさくら停車駅に移動」→「さくらに戻り、何事もなかったかのように博多へ」
これを推理ゲーム特有の総当たりで試してみる。表示される選択肢を全て試し、いろんな駅で乗り換えてみるが……どうしてもはやぶさからさくらに乗れない! 時刻表に書いてある通りの停車駅で降りて、タクシーを捕まえて高速道路を飛ばしてみても、さくらの出発時刻に間に合わないのだ。
一体どういうことだ!?
だが、これは決して「理不尽な仕様」や「非現実的なトリック」などではないということは断っておきたい。この謎は、どうしても総当たりになってしまいがちな推理ゲームの裏を掻いたものと言えるだろう。もちろん、「何らかの手段でさくらの出発を遅らせた」という三文小説にありがちなトリックではない。
ここでヒント。このゲームは確かに本物の時刻表に忠実なのだが、だからこそそれに囚われ過ぎるのは禁物である。ゲームの中では西村京太郎氏本人が登場し、重要なヒントを教えてくれるようになっている。まさに小説やドラマで見ているような推理ものの醍醐味を味わえるのだ。
ファミコンでもミステリーを楽しむことができる。それを証明した偉大な作家に、哀悼の意を示したい。