2019年のアニメ第1期の放送をきっかけに本格的にヒットし、社会現象を巻き起こした吾峠呼世晴氏の漫画『鬼滅の刃』。
鬼を相手にした生死ギリギリの過酷な戦いを描く同作では、読者をも奮い立たせるような熱い名セリフが数多く登場した。しかしその一方で、真面目で頑張り屋ながら周りから天然キャラ扱いされる主人公・竈門炭治郎のおとぼけ発言もあり、ほっこりした気持ちを味わった読者は多いはず。
そこで今回は炭治郎が作中で発した『鬼滅の刃』のツラい世界観に見合わない、ゆるい名セリフを振り返りたい。いつも気を張ってしまう人にこそ、一息ついてほしい。
■「長男だから我慢できたけど 次男だったら我慢できなかった」
まずは、コミックス3巻の鼓屋敷でのこと。緊張感マックスで鬼と対峙する中、炭治郎は以前の戦いで負った傷の痛みに耐えながら戦っていた。
このとき炭治郎は回想しながらモノローグで、「すごい痛いのを我慢してた!! 俺は長男だから我慢できたけど 次男だったら我慢できなかった」と、実はずっと痛みを我慢して過ごしていたことを振り返っている。真剣な戦闘の最中だからこそ、このセリフがギャグなのか本気なのか分からず、笑っていいのかどうか判断に困った読者も多いのではないだろうか。
作品の舞台は大正時代。現在よりも家父長制や長子にかかる責任などの価値観が根強く、炭治郎の「自分は長男」という思いが責任感の強さと家族愛にもつながっているのだが、モノローグで「痛いなあ」と呟いている姿がなんともかわいらしい。あの努力家の炭治郎でさえも長子でなかったらここまで頑張れなかったというのだ。われわれも、長子であってもなくても、どうしても我慢できないことがあってもしかたないのではないだろうか。
一方で、この炭治郎の発言をマネして実際に「長男(長女)だから」と我慢したり頑張る子どもの読者も多いらしい。炭治郎が子どもたちに与えた前向きな影響は計り知れない。
■ピリピリ怒る玄弥をスルーする鈍感力
続いては、会社やプライベートで理不尽な怒りをぶつけられたときにぜひ使いたいフレーズ。コミックス12巻で、炭治郎がカリカリする不死川玄弥に対して戸惑いながら発した「何であんなにずっと怒ってるんだろう やっぱりおなかすいてるのかなあ」というセリフだ。
これは、刀鍛冶の里で玄弥から「出てけ!!」と蹴って追い出された後に、彼に対して怒ることなく、むしろ心配した様子で発した言葉。表向きには炭治郎の人柄がよく表れた、他人を気遣う優しい発言だと思われるが、玄弥がピリピリしている原因は、間違いなく炭治郎だった。
玄弥の部屋で我が物顔でせんべいを食べ、また過去には玄弥の腕を骨折させるもそれを悪びれる様子もなく、さらには玄弥の落とした歯を大切に手元にとっておくという“奇行”に走った炭治郎。そんな彼の姿に玄弥が気味悪がるのもうなずけるが、炭治郎本人はそう思われていることに気づかないのだった。
これぐらいの「鈍感力」を持っていれば、社会生活の中でストレスを感じることも少なくなるかも?