■衝撃だった「肉の壁」なるパワーワード
若い剣士たちが命を落とすという無情はまだまだ続く。黒死牟を倒した後、物語のクライマックスで珠世によって押さえ込まれていた鬼舞辻無惨が復活。このとき多くの名もなき隊士たちがバラバラに惨殺され、無惨回復のための食料とされてしまう。このとき近くにいた隊士たちは無惨によって一瞬で全員殺され、あらためて鬼殺隊サイドは無惨との圧倒的な戦力差を感じることとなる。
これでもまだ地獄のような展開は終わらない。無限城が崩れた後、柱たちが同時に無惨への攻撃を繰り出すも、無惨は斬られた瞬間から体を再生させ全ての攻撃を無効化。このとき一般の隊士たちは「肉の壁になれ」「少しでも無惨と渡り合える剣士を守れ!!」と叫び、柱を守るため自分たちを「肉の壁」にして命を落とした。
このとき亡くなった一般隊士たちの中には、柱稽古編で炭治郎らとともに厳しい稽古に励み、一緒に食事をとったと思われる者たちもいた(伊之助が「あっちこっちに転がってる死体は一緒に飯を食った仲間だ」と語っている)。先ほどまで生きていた仲間たちが一瞬で肉塊となるさまは、あまりにもやるせない。
無一郎と玄弥、そして隊士たちに共通するのが、自身が弱いというのを知っていたこと、そしてそれでも最後まで役に立とうとしていた誇り高い心持ちだ。これを読みながら、私たちは同じ状況で彼らのようにできるかと想像すれば、いかに彼らが強い信念を持って行動していたかが分かるだろう。
『鬼滅の刃』は容赦のない展開が語られがちだが、それゆえ見えてくる「命の尊さ」が物語のテーマの根底にあるような気がしてならない。