名作漫画と聞かれてまず思いつく作品。年配の方からは『鉄腕アトム』や『ブラックジャック』をはじめとする手塚治虫作品が挙がるかもしれないし、若い世代にとっては吾峠呼世晴氏の『鬼滅の刃』や尾田栄一郎氏の『ONE PIECE』などになるかもしれない。いずれも発行部数1億部を超える名作だが、無数の作品が刻まれる漫画史にはヒットこそしないまでも多くのファンに愛される名作も多数存在する。今回はそんな「隠れた名作」を、有名漫画家の作品群の中からいくつか取り上げてみたい。
まずは『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズで知られる荒木飛呂彦氏の作品から。『ジョジョ』は1987年に『週刊少年ジャンプ』で連載が始まり、今もシリーズが続く人気作だが、これのヒットを得るまでに荒木氏は『魔少年ビーティー』、『バオー来訪者』、『ゴージャス☆アイリン』という短期連載作品を発表している(『ゴージャス☆アイリン』は短編集)。いずれも『ジョジョ』に通じる荒木ワールド全開、洗練とは別の魅力を持つ作品なのだが、特に推したいのは変身ヒーローものの傑作漫画『バオー来訪者』(1984年、週刊少年ジャンプ連載)だ。
政府の秘密組織ドレスにより生物兵器に改造された青年・育朗と、予知能力を持つゆえにドレスに追われる少女・スミレの逃亡と戦いを描いた物語。サスペンス調のアクションストーリーは秀逸で、なにより目を奪われるのが、育朗が変身するバオーの姿だ。
体内の寄生虫“バオー”は宿主の危険を察知すると武装現象(バオー・アームド・フェノメノン)を発現し、育朗はダークヒーロー然とした異形の姿へと変身する。王道ヒーローとは真逆の格好良さを放つデザインだったが、その不気味さと、静けさのあるサスペンス的な雰囲気は当時のジャンプには異質すぎたのかもしれない。連載はわずか17話で完結し、残念ながら巻頭を飾るような人気作にはならなかった。
しかしながら、本作は短期連載ではあったが不人気だったということもなく、最終話までの間、物語は非常にムダなくまとめられている。単行本化の際には第1巻に寺沢武一氏、第2巻に夢枕獏氏という2人の巨匠が絶賛のコメントを寄せ、のちにOVA化もされていることからどれほどの傑作であったかがうかがえるだろう。