■煉獄が残したものとは

 ではなぜ煉獄の死がこれほどまでに、炭治郎の心に影響を与えたのか。正義感が強く真面目な炭治郎の性格から想像すれば不思議ではないが、炭治郎と煉獄は、鬼討伐に向かう動機が非常に似ていることもひとつの理由として挙げられるのではないだろうか。

 柱の多くが鬼に家族を奪われた被害者で、心に闇を抱えながら鬼狩りをしている。『鬼滅の刃』は炭治郎の家族が鬼に殺されるところから始まる物語だが、炭治郎は私怨で鬼を狩らない。ただ鬼と、その鬼を生み出した元凶である無惨を倒すという大義のもとに討伐するのだ。

 無限列車編での煉獄もそうだ。ただ「誰も死なせない」というモチベーションで鬼を討伐していた。鬼に家族を殺された被害者ではなかったが、父親に虐待を受けていたにもかかわらず、父に対して恨みの感情を一切持たない。穏やかな気質も似ている。

 命をかけて責務を全うした煉獄の生き様に、炭治郎は隊士として人として、大きく共鳴したに違いない。柱としてのあり方を背中で示した煉獄の存在は、後進である炭治郎の戦闘力を飛躍させるトリガーとなったのだ。

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