■荒木氏も認めた設定ミス
最後は『ジョジョの奇妙な冒険』であった、作画ミスというより設定ミスというケース。同作は初代主人公ジョナサン・ジョースターから始まるジョースター家と宿敵ディオ・ブランドーとの因縁が物語の下敷きにあり、19世紀のイギリスから現代まで長くつながっていく歴代ジョジョによる一大叙事詩といった作品だ。舞台の時代が変遷しても設定は受け継がれていくわけだが、その中で起こった矛盾が、第2部で登場したシーザー・A・ツェペリの存在だ。
シーザーは第1部に登場したツェペリ男爵の孫だが、死の間際に男爵は「わしは……結婚もしなかったし…家族ももたなかったが…」とジョジョに告げていた。ジョークが好きな男だったが、さすがに胴体真っ二つの状態でそんなウソはつかないだろう。ということは、シーザーはツェペリ男爵の孫をかたる偽物なのか? 敏感な読者はこの矛盾に推測を当てていたが、話が進むにつれどうやら血のつながった本物の孫であることが分かってくる。
いてはいけない男……シーザーはある意味、彼自体が作画ミスのような存在になってしまっていたが、これについては設定ミスであることを、該当話収録の単行本第4巻のあとがきで、作者の荒木飛呂彦氏が認めている。その後に発売された単行本や文庫版では、ツェペリ男爵のセリフは「わしは…若い頃結婚していた」に変更されている。
ジョジョやツェペリ男爵が使う波紋法という技は特殊な呼吸法を習得してこそできる秘術だが、シーザーは生まれながらの素質だけで波紋法を使いこなしていた。あとがきで設定ミスの原因については言及されていないが、これを成立させるために“ツェペリ男爵の孫”という血のつながりが必要だったのだろうと言われている。ちなみにそのあとがきは、「おとなはウソつきではないのです。まちがいをするだけなのです……。」と、荒木氏らしくおちゃめに結ばれている。
今でこそアニメや漫画の作画ミスがSNSですぐに広まってしまうような時代だが、作者や編集者たちは締切と戦いながら作品を届けてくれている。作画ミスも面白く受け取るぐらいの大らかな気持ちで読みたいものだ。