■少年漫画の“お約束”を許さない?
暗黒武術会の決勝まで勝ち進んだ幽助たちは「戸愚呂チーム」と対戦。浦飯幽助と戸愚呂弟の戦いが事実上の優勝決定戦となる。互いに相手の出方をうかがう中、至近距離から幽助が放った霊丸が戸愚呂弟に直撃。しかし、大きく吹き飛ばされた戸愚呂弟の体は、まったくの無傷だった。
幽助は修行のために課していた“呪霊錠”のハンデを外し、戸愚呂弟のほうも“100%”のパワーを発揮。全力で放った霊丸を気合いだけで消し飛ばした戸愚呂弟は、幽助に危機感が足りないことを指摘する。
さらに戸愚呂弟は「おまえ、もしかしてまだ、自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?」というセリフを投げかける。幽助に本気を出させて全力勝負がしたい戸愚呂弟らしい言い回しではあるが、個人的には「主人公は死ぬはずがない」という、まるで“少年漫画のお約束”を皮肉ったようにも感じられる言葉だった。
■作者の言葉を代弁した「切ないセリフ」
人間の醜悪な部分を目の当たりにして極度の人間不信に陥った、元・霊界探偵の仙水忍。人間界と魔界をつなぐ界境トンネルを開き、憧れていた魔界にやってきた仙水は、魔族として復活した浦飯幽助と戦う。
人間でありながらS級妖怪クラス並の力を持つ仙水は、魔族となった幽助とも互角の戦いを繰り広げた。しかし、先祖に無理やり意識を乗っ取られた幽助が放ったケタ違いの霊丸を食らって致命傷を受け、仙水は命を落とす。
仙水の長年のパートナーである妖怪の樹は、彼の亡きがらを抱えて亜空間へと消えていく。そのとき樹が言い残したのが、「これからは二人で静かに時を過ごす」「オレ達はもう飽きたんだ」「お前らは、また別の敵を見つけ戦い続けるがいい」というセリフだった。
当時は素直に“仙水編”と呼ばれた魔界の扉編の最期を締めくくる、とても切ないセリフに感じたが、のちに作者の冨樫義博氏が作った同人誌の中で、この樹のセリフについて言及。「当時の原作者(オレ)の血の叫びが入ってた」と明かしている。
「魔界の扉編」の冒頭を振り返ると、暗黒武術会で幽助と死闘を繰り広げた戸愚呂弟ですら“B級妖怪”に過ぎず、さらにA級、S級妖怪の存在が示唆されていた。もしかすると富樫氏自身も、敵・味方の強さだけがどんどんインフレしていくありがちな展開に飽きて、樹にこのようなセリフを言わせたのかもしれない。
最初の爆拳に対する「見開き」発言はともかく、戸愚呂弟のセリフや樹のセリフはコミックスを素直に読めば、メタな発言と受け取る人は少ないだろう。だが作者本人が教えてくれたように、セリフにほかの意図や解釈が含まれるケースがあることが分かったので、『幽遊白書』……というか富樫氏の作品は何度も読み返したくなってしまう。