■救いが感じられない残酷すぎる世界

 最後に紹介したいのは、コミックスの33巻に収録された「トランクス・ザ・ストーリー たったひとりの戦士」というエピソード。『ドラゴンボール』本編ではなく、未来から来たトランクスの元いた世界を描いた「番外編」になります。

 この時間軸では、孫悟空ははるか前に心臓病で死亡し、ピッコロやベジータといった頼れる戦士たちも人造人間によって殺されています。残されたZ戦士・孫悟飯も過去の人造人間との戦いで左腕を失っており、隻腕になっています。

 そんな人類にとって頼みの綱で、唯一の希望である悟飯までもが人造人間17号と18号によって惨殺。血まみれでアスファルトの上に横たわる無残な悟飯の姿、周囲の破壊された街は炎と煙に包まれているという地獄絵図で、とうとう地球に残された戦士はトランクスのみとなってしまうのです。

 つまり「物語の主人公が生存しない」「ドラゴンボールによる復活も期待できない」という絶望的な状況。確実に人類の滅亡が近づきつつある荒廃した地球に救いはまったくなく、この『ドラゴンボール』の“バッドエンド”ともいえる「番外編」の世界に、何とも言えない恐怖や残酷さを感じました。


 以上のように『ドラゴンボール』を読んで恐ろしいと思った3シーンをご紹介しましたが、読者ごとに恐怖を感じるポイントはさまざまだと思います。明るいシーンと恐ろしいシーンを絶妙に配置し、その緩急でクライマックスをさらに盛り上げる……『ドラゴンボール』はそんな“展開の妙”が詰まった作品といえるのではないでしょうか。

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