『鉄腕アトム』(1963年~)から始まった日本の本格的なアニメーション作品。ジブリ映画、『AKIRA』(1988年)、『新世紀エヴァンゲリオン』(1995年~)など、黎明期から現在まで長い歴史に輝く金字塔はいくつも存在し、リアルロボットアニメの元祖『機動戦士ガンダム』(1979年~)もそこに数えられる歴史的な名作の1つだ。
宇宙世紀という近未来の宇宙移民時代、人型機動兵器のモビルスーツ、アムロとシャアの戦いといった物語の内容は広く知られているところだが、じつは本作には原作者の富野由悠季氏(当時は富野喜幸名義)が書き下ろした、まったく別ストーリーの小説版がある。
それはまだこの名作アニメが世に広く見つかる前。テレビ放送中の1979年11月に刊行されたものになる。当時小学生だった筆者は富野氏自らが書いた小説版があることはつゆ知らず、手に取ったのはわりと大人になったころ。「小説だとアムロ死ぬんだぜ」という友人の言葉に興味を持ったのがきっかけだった。
実際に手に入れて読んでみると、いや、マジにアムロが死んでいるじゃないか。
運命のガンダム轟沈シーンは最終巻3巻の後半。いよいよクライマックス突入というときに起こる、まさかの主人公退場劇だった。ただ、ここまで読み進めて知ったのだが、そもそもこの小説版は、地球連邦軍とジオン公国軍の戦いという舞台設定以外、ありとあらゆるところが異なっていた。
初級レベル(?)では、アニメ版ではもともと民間人だったアムロ、カイ、ハヤトといった面々が、小説版では当初から軍属であること。ペガサス(アニメ版でのホワイトベース)は一度も地上に降りず、坊やのガルマは宇宙で死ぬ(しかもシャアは謀らない)。壺のマ・クベが戦死したテキサス・コロニーが大激戦の地となり、シャアザクはガンダムにやられて大破(シャアは辛くも脱出)。ペガサスは轟沈し、アニメ版のアムロばりに覚醒したセイラの導きでクルーは脱出。ガンダムはララァのエルメスを貫くが、爆発に巻き込まれて大破。脱出したアムロは宇宙を漂うという怒涛の展開になり、1巻目は幕を閉じる。