■トミノメモにも記された初期構想

 どうしてアニメ版と小説版はこうも内容が違うのか。後に富野氏は、もともと単巻完結で書いたが、あとに起こった再放送とガンプラブームの盛り上がりを受けて、続巻の執筆依頼がきたことを明かしている。たしかに初版のソノラマ文庫版第1巻には巻数のナンバリングはなく、第2巻は第1巻からだいぶ空いた約1年後に刊行されている。富野氏は続刊に関してこのまま書き続ければアムロは必ず死ぬ。どうするべきか迷い、結果当初の構想のままいくことにしたと、後年のインタビューで述べている。

 この「当初の構想」とは小説執筆のためにひねり出したものではなく、アムロが死ぬのは「トミノメモ」と呼ばれる『機動戦士ガンダム』の初期構想に記されていることだ。どちらが正解ということはないものだが、打ち切りを受けたアニメ版ではできない、本当に書きたかった結末が小説版で、であるからこそ、「このまま書き続ければアムロは死ぬ」となったのではないだろうか。

 ちなみに第3巻が刊行されたのは、劇場版第一部公開直後の1981年3月のこと。小説版ラストを知ったら劇場版ではアムロが死ぬと思われそうなところだが、リアルタイムで体験していたファンはこのときの衝撃をどう受け止めたのか、聞いてみたいところでもある。

 なお、アニメ版もかなりハードな内容だったが、アニメ的ヒロイックが消えたアムロたちがつむぐ小説版のドラマはそれ以上。SF設定も積み上げられており、硬派なSF戦記ものというのは、刊行がソノラマ文庫であるということだけでも往年のSFファンには分かってもらえるだろう。

 アニメ版も小説版も、どちらも富野氏の『機動戦士ガンダム』という1つの作品だ。多少揶揄するように書いてはしまったが、本稿で興味を持った未読のガンダムファンはぜひこの小説版(現在は角川スニーカー文庫より刊行)を手に取って、両作の違いを楽しんでみてもらいたい。小説版オリジナルの登場人物、意外すぎるところで登場するランバ・ラル、アムロとシャアが乗り換えるモビルスーツ、ソーラ・レイが狙う先……など、ここで触れなかったことはまだまだある。

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