■「そんな時代に生まれ合わせたのなら、天下の覇権を狙ってみるのが男ってもんだろ」

 これは志々雄と同じく、幕末の動乱を生き抜いた剣心と斎藤一に述べたセリフ。西欧列強の目を気にして志々雄を討伐する軍すら出せない政府の弱腰にあきれながら、「俺が覇権を握り取ってやる!」と志々雄は豪語する。

 国を強くすることが、志々雄が覇権を握ろうとする正義。その志々雄の行動により、平和に生きてきた人々の血が流れることが許せない剣心と真っ向から対立する。

 目的遂行のため、他人の犠牲はいとわないという点については賛同できない人が多いはず。ただ実力をもって頂点を目指すという迷いなき姿勢や、覇気のある言動は頼もしく魅力的な部分だ。これが他人の犠牲がともなう国盗りのいくさではなく、スポーツ選手や実業家の言葉であれば、全然違った印象を受けるのではないだろうか。

■「信じれば裏切られる」「油断すれば殺される」「殺される前に殺れ」

 こちらも剣心と斎藤一に述べたセリフ。幕末では維新志士として“要人の人斬り”という暗部を担っていたのが志々雄真実だ。剣心のことを“先輩”と呼んでいたのは、彼が剣心の後任だったからである。

 いわば汚れ仕事を担っていた志々雄は、幕末の薩長の勢力、つまり明治政府にとって都合の悪い秘密を多数握っていた。その結果、戊辰戦争の混乱に乗じ、同志によって志々雄は不意討ちされ、体を焼かれることになる。志々雄が全身包帯を巻いているのは、このとき負ったやけどによるものだ。

 そんな凄惨な過去を踏まえ、志々雄が語ったのがこのセリフ。彼が身をもって実感した、ある意味“教訓”でもある。さらに彼がすごいのは、実行犯に「むしろ感謝してるくらいだ」と語った点にある。卑劣で悲惨な仕打ちを受けながら、自身の甘さを教えてくれたことに感謝を述べ、復讐する気はないと言い切った器の大きさに驚かされる。

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