■煉獄杏寿郎にとっての“幸せ”とは?

 しかし煉獄杏寿郎が水の底に沈む描写がないのは、たまたま映像を省略されただけという可能性も拭いきれない。実際に彼も魘夢の血鬼術で眠りにつき、炭治郎たちと同様に夢を見ていたのは事実なのだ。

 夢の中で、鬼殺隊の柱になったことを父親の槇寿郎に報告して「くだらん…どうでもいい」と言い捨てられた場面。そして父が喜んでくれなかったことを弟に正直に打ち明ける場面は、見ていて胸の痛むシーンだった。

 煉獄杏寿郎にとっての幸せな夢であるなら、亡くなった母・瑠火が生きていて、父・槇寿郎は鬼殺隊の頼もしい炎柱として、杏寿郎・千寿郎兄弟にとって憧れの存在として活躍し続けている……そんな絵図を一視聴者としては妄想してしまう。

 しかし、現実では母の死はくつがえらないし、家族である父と弟がいる生活こそが煉獄杏寿郎という男にとってのリアルな日常だ(たとえツライことがあったとしても……)。そんな普通の日々に幸せを感じているのだとすれば、彼が現実と変わらない場面を「幸せな夢」として見ても不思議はないのかも。

 またテレビアニメで描かれるのはもう少し先になるが、上弦の鬼である猗窩座との戦いの中で、鬼になることを勧められた煉獄杏寿郎はその申し出をキッパリと断った上で、こうも語っていた。

「老いることも死ぬことも人間という儚い生き物の美しさだ」「老いるからこそ死ぬからこそ堪らなく愛おしく尊いのだ」と。

 こうした価値基準、死生観を持った男だからこそ、すでに亡くなった母親がよみがえることを夢見るとは考えにくいし、たとえ父親にツラく当たられたとしても大事な家族として身を案じ続けているのだろう。「今を生きる家族との生活=幸せ」というのが、煉獄杏寿郎の“想い”なのかもしれない。


 ほかにもいろんな考え方ができそうだが、正解は作者である吾峠呼世晴氏しか知りえない。あえて作中で明言しないことで、ファンにいろんな想像や解釈の余地を与えてくれるのも『鬼滅の刃』の魅力と言えるだろう。アニメには、原作コミックと演出や描写が微妙に変化している点があるので、その意図を推察しながら振り返ってみるのもおもしろい。
 

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