■時透兄弟の悲しき事件
同じく柱である時透無一郎の兄弟話も涙なしでは語れない。山できこりとして育った二人は10歳のときに両親を病気と事故で亡くし、双子の兄の有一郎は弟の無一郎につらく当たるように。そのうち家に鬼殺隊の勧誘が来たことをきっかけにさらに関係が険悪になってしまう。そして喧嘩をしたまま、夜に鬼の襲撃に遭い有一郎が命を落とす。この出来事がトラウマになって無一郎は記憶喪失となってしまったのだった。
実は、有一郎が弟につらく当たったのは、彼を守りたいという不器用な優しさからだった。鬼殺隊は政府非公認の組織であり、そもそも鬼の存在は一般市民には広く知れ渡っていないことが作中の随所から読み取れる。そのため、鬼殺隊は世間では「よく分からない組織」「怪しい組織」という程度の認識だったのだろう。そうすると肉親を危険な目に合わせたくないという考えは、至極常識的なものだと思われる。
ましてや、肉親を鬼に殺されたわけでもない子どもが背負うにはあまりにも重く危険すぎる責務。そう考えると、もし自分の立場だったら、たった一人の兄弟を鬼殺隊に入隊させるのはなんとしてでも止めたいと思うものではないだろうか。
このほかにも『鬼滅の刃』では、蟲柱・胡蝶しのぶと姉・カナエや、水柱・冨岡義勇をかばって祝言の前日に殺された姉の蔦子など、数多くの兄弟の姿が描かれているが、そのどれもがお互いを思いやっている姿が印象的だ。