押井守監督インタビュー「ドラえもんの監督オファーがあったら喜んで受ける」70歳の現在も変わらぬ“アニメ現場”への思いの画像
押井守(撮影:弦巻勝)

 僕は「アニメ作家」や「映像作家」と呼ばれることもありますが、自分では「映画監督」だと思っています。

 アニメの監督業に軸足を置きながら、実写作品もやったし、舞台も演出したし、ゲームも3~4本作った。小説も随分書きましたし、愛知万博のパビリオンの演出も手掛けた。いろんなことにちょっかいを出してきた人間です。宮さん(スタジオジブリ宮崎駿監督)とは全然違うタイプですね。

 これだけ、さまざま手を出してきたのは、単純に好奇心が強いのもありますけど、“監督”として自分を試したかったから。

 最近の若い監督には、いろいろなことをやる人が増えていますが、僕の若い頃は違いました。

 アニメ業界には、職人タイプの人が多い。だから、『紅い眼鏡』(1987年)という実写作品を初めて撮ったときは、「なんで実写なんかやるんだ」「実写のほうがエラいと思っているのか?」なんて言われました。

 逆に実写の世界に行くと「アニメの監督が来た」ということになっちゃう。でも海外に行くと、「『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)の監督が来た」という扱いで、そこに“壁”がないんです。

 アニメと実写では、仕事の面白さの質が全然違います。アニメは、スタジオに籠もって1つの作品を最低2年程度かけてコツコツ作るもの。僕はレイアウト(画面構成)を固めるまでは自分で徹底的にやる。でも、作画が始まったら何もしません。監督として判断すべきことは日々あるので、毎日スタジオには入りますが、18時には帰ります。 

 なぜ、そこで作品を突き放すかというと、深入りすると正しい判断ができなくなってしまうから。監督は作品を遠くから眺めていないとダメなんです。それに、スタッフには手足だけではなく、それぞれの知恵も借りたい。映画監督は基本的に“人に仕事をさせる仕事”。そこが作家やミュージシャンとの違いですね。 

 ただし、その後のポストプロダクション(編集や、音楽や効果音を合わせたりする仕上げ作業)は絶対に全部自分でやります。そこだけは本当に頑張る。誰にも負けません(笑)。

 一方、実写作品を撮影しているときは、朝が早い。6時前に目が覚めて、窓から天気を確認することから始まります。早朝に集合して、役者と一緒にロケバスに乗って現場に行くという毎日です。どんな大作でもせいぜい撮影期間は70~80日ですから、アニメと比べると圧倒的に短い。そこも大きな違いです。ただ、監督が作品と距離を置くべきなのは、実写も同じだと思います。

 アニメを作っているときには酒は飲みません。飲んでもうまくない。でも、実写は逆に酒がうまい。というより、飲まないとやってられない(笑)。

 でも、さまざま手を出してはきましたが、アニメが自分のホームグラウンドだという意識はずっと変わっていませんね。

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