■信頼関係を一方的に切り裂いた「冷酷な瞳」
『BLEACH』の悪役を語る上で、やはり藍染惣右介(あいぜんそうすけ)の存在は外せないだろう。もともと藍染は一護と同じく死神で、護廷十三隊の五番隊隊長を務め、多くの人々から慕われていた人物である。
そんな藍染のことを誰より敬愛していたのが副隊長の雛森桃。藍染の死(のちに偽装と判明)を知ったときは錯乱したほど藍染隊長のことを想っていた女性だ。その後169話「エンド・オブ・ヒプノシス」というエピソードの中で、死んだと思っていた藍染と雛森が再会を果たすが、その一連のシーンがとにかく衝撃的だった。
突然目の前に現れた藍染に驚き、涙を浮かべて駆け寄る雛森。「…すまない」「…心配をかけたね雛森くん」と以前と同じように頭を撫でられた雛森は、涙が止まらなくなって藍染に抱きつく。
藍染は死を装ったことを謝罪しながら「君を部下に持てて本当に良かった」などと感謝の気持ちを述べていく。そして「本当にありがとう…」「さよなら」と言い、突然雛森の体に刀を突き刺した。
体を貫いた刃と流れ出る血を見て、信じられないという表情で藍染を見上げる雛森。それを冷ややかな目で見下ろす藍染の表情を見たときの衝撃は、今も忘れられない。
シリアスな戦いなどを描いた物語であれば、ショッキングなシーンが登場することは珍しくないが、なぜか『BLEACH』のそうした場面は記憶に残っているものが多い。悪役が改心するケースもあるが、久保帯人氏の描く、少々理解しがたい思考を持つキャラクターは最後まで一貫した行動を見せたのもその理由なのかもしれない。