■あと一歩のところで直撃したハートブレイクショット

 続いては森川ジョージ先生のボクシング漫画『はじめの一歩』より、一歩が初挑戦した日本タイトルマッチ「伊達英二戦」。

 国内最強の男と言われている伊達英二。一歩に初めて黒星をつけた男です。プロデビューしてからどんどん成長して連勝を続ける一歩。あっという間に日本チャンピオンの伊達に挑戦することになります。対する伊達は、一歩に勝って因縁の相手である世界チャンピオンのリカルド・マルチネスに挑む前の最後の相手として一歩と戦います。

 果敢に立ち向かう一歩、その死闘の中で若い頃の闘争心を再びむき出しにする伊達英二。そしてついに、伊達の必殺技“ハートブレイクショット”が決まり一歩が初めての負けを味わいます。

 一歩はこれをバネにして、数試合後には日本チャンピオンになります。そして、ここで見せた伊達英二のドラマがこの後、リカルド・マルチネスとの世界タイトルマッチにつながります。はじめの一歩という漫画は、主役の一歩以外の試合も、主役級の輝きを見せます。ここでの一歩の負けが、伊達の世界戦をよりドラマティックにしたと言えるでしょう。

■日本のスポーツ漫画史上ナンバーワンの負け試合

 最後に選ぶのは『あしたのジョー』から、世界タイトルマッチ「ホセ・メンドーサ戦」。

 言わずもがな、超有名なラストシーンが描かれる、ジョー最後の試合です。主人公が負けて終わるという衝撃的な最後ですが、ジョーの生きざまがあふれている最高のラストです。読んでいない若い人はぜひ読んでほしい。漫画史上、ベスト1の終わり方じゃないでしょうか。

 作者のちばてつや先生によると、原作の梶原一騎先生(高森朝雄)から伝えられたラストの内容は「ホセ・メンドーサに判定で敗れたジョーに、段平が『お前は試合では負けたが、ケンカには勝ったんだ』と労いの言葉をかける。ラストシーン、白木邸で静かに余生を送るジョーと、それを見守る葉子の姿」というものだったそうです。

 ですが、ちばてつや先生が梶原先生にかけ合い、考えに考えて、今のエンディングにしたそうです。真っ白になったのはジョーだけではなく、ちば先生もラストシーンを書き上げた後、5日間何も出来ず、ご飯もおかゆしか食べられなくて、ご家族が心配されたそうです。

 以上3つの負け試合をご紹介しました。今回はスポーツ漫画に絞りましたが、どんな漫画にもある“主役の負け”を振り返ってみてはいかがでしょうか?

  1. 1
  2. 2