■甲子園無敗の絶対王者がまさかの…!

 最後は、やはり現在開催中の夏の甲子園を描いた作品から。水島新司氏による野球漫画の金字塔『ドカベン』(秋田書店)で飛び出した大番狂わせの場面を紹介したい。これだけは主人公チームが起こした逆転劇ではないのが特徴だ。

 主人公・山田太郎のいる明訓高校野球部は夏・春と甲子園を2連覇中で、いまだに甲子園では無敗。3連覇のかかる夏の甲子園が、今回紹介する「番狂わせ」の起こった舞台だった。

 その明訓が2回戦で対戦したのは、甲子園初出場の岩手県代表・弁慶高校。岩手県大会はいずれも1対0の僅差で勝ち上がり、甲子園1回戦でも優勝候補の土佐丸高校に1対0で勝利を収めていた。

 弁慶高校は、パワフルな打撃が特徴の主砲・武蔵坊数馬と140キロの速球を誇る豪腕エース・義経光を擁するが、そのほかに目立った選手はいない。「明訓四天王」と呼ばれる山田、岩鬼、殿馬、里中を始め、そうそうたるメンバーがいる明訓に比べると、どうしても見劣りした。

 明訓は山田を1番に据える奇策により先制するが、これは弁慶側が巧妙にしかけたワナ。のちに打順を入れ替えたことによる弊害が現れ、明訓は予想以上の苦戦を強いられる。

 そして里中が投じた敬遠の球を武蔵坊に狙い打たれ、ついに逆転された明訓。だが9回の土壇場に山田の起死回生の同点ホームランが炸裂。苦しみながらも明訓が勝つ流れかと思ったが、弁慶はその裏にサヨナラのチャンスを作った。

 そのとき野手の送球が武蔵坊に当たる不運があり、ランナーの義経はホームに突入。本塁ベースを守る山田の上を「八艘とび」の大ジャンプで飛び越え、アクロバティックなサヨナラホームインを決めた。

 いくら弁慶高校が土佐丸を破るほどの不気味な存在とはいえ、甲子園無敗の絶対王者・明訓を倒したのは完全に予想外。一読者として本当に驚いた「衝撃的な大番狂わせ」だった。

 スポーツ漫画で、主人公のいる弱小校が強豪校を倒す展開はお約束ではあるが、何度読んでも感動させられるもの。皆さんの心の中には、どのような「番狂わせ」のシーンが思い浮かぶだろうか。

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