■ある意味、本懐を遂げた男?
最後に紹介したいのは『機動戦士ガンダムZZ』に登場した「マシュマー・セロ」。『機動戦士ガンダムZZ』は1986年に放映されたTVシリーズで、『機動戦士Zガンダム』の続編だ。
マシュマーはネオ・ジオン所属の騎士道精神あふれるパイロットで、実質的な指導者であるハマーン・カーンを敬愛する人物。ハマーンからもらったバラを枯れないように大切にコーティングしていたエピソードでもおなじみである。
そんなマシュマーは物語序盤から登場したが、たび重なる作戦失敗により表舞台から一度姿を消す。そして物語の終盤で再登場すると、このときのマシュマーには強化手術が施されており、それまでのコミカルだった三枚目な部分は消失。それでもハマーンに対する過剰なまでの愛情は健在で、ハマーンのために戦う冷酷な戦士となっていた。
反乱を起こしたグレミー・トトのニュータイプ部隊との戦いでは、強化人間となったマシュマーが真価を発揮。ザクIII改に乗ったマシュマーは、プルツーのクィン・マンサすら圧倒。鬼気迫る操縦でファンネルをさばき切ってクィン・マンサに一太刀浴びせると、プルツーは「こいつは並ではない」と驚愕していた。
さらにラカン・ダカランが率いるスペースウルフ隊と対峙したマシュマーは、4機のドーベン・ウルフが四方から同時発射したメガ・ランチャーを謎のバリアで弾き返す。このときマシュマーの搭乗していたザクIII改にバリアを発生させるIフィールドなどは存在せず、ハマーンへの愛が生み出した奇跡の力のようにも見えた。
そしてドーベン・ウルフの1機を捕まえたマシュマーは「私はやられぬぞ……このマシュマー・セロ、己の肉が骨から削ぎとれるまで戦う!」と宣言。機体からはえたいの知れないオーラが立ち上り、マシュマーは「ハマーン様、バンザーーーイ!」の絶叫とともにドーベン・ウルフもろとも爆散した。
これを目の当たりにしたラカン・ダカランは「何の光!?」と衝撃を受けていたが、単にマシュマーを強化し過ぎたことによる精神力の暴走と片づけるには不可解すぎる現象だったと言えるだろう。
こうしてマシュマー・セロは壮絶な死を遂げたワケだが、そこにほかの強化人間の最期のような悲壮感はない。むしろ敬愛するハマーンのために戦い抜くという、マシュマーの一貫した想いが成就したようにも思える場面だった。
このマシュマーの最期についてさまざまな意見があるだろうが、個人的には「彼にとって幸せな最期だったのでは」と感じた次第である。
『ガンダム』シリーズの強化人間たちは戦争の道具として利用された末、非業の死を遂げることがほとんどなのは周知の事実。今回紹介した強化人間たちは、長いシリーズの中でも本当に珍しいケースと言えるだろう。