レジャーのつもりが戦闘任務!? 擬似3D表現で“ヒュン”したスーパーファミコンの隠れた名作『パイロットウイングス』を振り返るの画像
画像はスーパーファミコン用ソフト『パイロットウイングス』(編集部撮影)
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 1990年11月21日のスーパーファミコンの発売から1か月後、同年12月21日に任天堂よりリリースとなった『パイロットウイングス』は、まさに「隠れた名作」だった。

『スーパーマリオワールド』と『F-ZERO』という2本のローンチタイトルがあまりに注目されていたことと、フライトシミュレーションという渋く大人向けのジャンルだったため、まずスーファミと同時に『パイロットウィングス』をねだる子どもは少なかったはず。だが本作はスーファミの持つ回転・拡大・縮小機能を使った擬似3D表現によるグラフィックが見事で、揚力や風の影響などを考慮してうまく飛行機を操縦しなければならないリアルな飛び心地が味わえた類まれなる良作なのだ。

SFCソフト『パイロットウィングス』タイトル画面

 ゲーム内容は、プレイヤーが「フライトクラブ」という飛行教習所に入会し、「ライトプレーン」「スカイダイビング」「ロケットベルト」「ハンググライダー」という4種類の航空試験の突破を目指すというもの。それぞれのエリアで、眉間にしわを寄せて怒る田中さん、ソバージュヘアの白石さん、カタコト言葉のスコットさん、サングラスにヒゲと強面だが涙もろい黒田さんと4人の教官が担当についてくれて、キャラが豊か。

レジャー気分で入会してつかの間、大空に放り出されることに……

 まずはライトプレーン。これは複葉機で、エンジン出力を調整し軽快な飛行ができる……と言いたいが、エンジンを最大出力にしてもどうも鈍重なきらいがある。宙返りができない仕組みで、それこそ大型旅客機のように慎重な降下角度でいかないと上手に着陸できないようになっている。

『パイロットウィングス』プレイ画面より

 そもそも、マトモな航空学校では事前に座学やシミュレーター訓練をやるはずだが、この「フライトクラブ」では入会初日にぶっつけ本番でいきなり飛行機に乗せられる。操縦できるわけないだろ。

 ナショナルジオグラフィックチャンネルの人気ドキュメンタリー番組『メーデー!:航空機事故の真実と真相』は、世界各国の航空事故とその原因検証を取り扱った内容だが、『パイロットウイングス』はまさに『メーデー!』案件。フラフラの操縦で滑走路に特攻し、飛行機が潰れる速度で激突。事故調査官もあきれるはずだ。

 しかし何度も事故を繰り返しながら続けていくと、だんだんとコツを覚えていく。高度とスロットルの兼ね合いなど、うまく着陸するための技量が自然と磨かれていくのだ。

高所が苦手な人はけっこう怖いと思う

 しかし、ライトプレーンだけうまくなっても次のステージへ進めないのが『パイロットウイングス』。お次はスカイダイビングが待っている。これも事前の訓練なしに、「黄色く光っているラインの中のターゲットに着地してください」と指示が出され、いきなり3800フィートからの落下を要求される。ひええっ!

 定められた落下ルートにある輪をくぐりつつ、パラシュートを開く。落下地点も自由ではなく、まるでアーチェリーの的のような部分にうまく着陸しなければならない。中央に近づくごとに高得点を得られる仕組みだ。何も教わっていないまま空に放り出され、地面が近づくごとに「落下スピード注意」とアラートが鳴る。今の世代から見ればドット絵にしか見えないと思われるが、当時は本当に空を落ちているような臨場感で“ヒュン”となる感覚があった。

『パイロットウィングス』プレイ画面より

 それが終わったら、ロケットベルト。バックパック式のジェットブースターで宙を舞うものだが、重力や慣性がいかに強い力かを体感することができる。1990年当時のゲームとしては、かなり精巧に物理法則が再現されているのではないか。

 最後はハンググライダー。これはライトプレーンとは違い、エンジンが搭載されていない。したがって上昇気流をうまくつかまえて高度を上げなければならない。おまけに、ハンググライダーは着陸がかなりシビアで、きっちり速度を落とさないとまたしても『メーデー!』案件に。いったい俺は、何回事故死すればいいんだ!と叫びたくなるほど絶妙な難易度が面白かった。

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