■大相撲は「平均以上」を目指す戦い
『つっぱり大相撲』でプレイヤーは、前頭13枚目、つまり幕尻からゲームを始める。勝ち越し、つまり8勝以上することで出世できるようになっていて、平幕のうちは勝ち数によって昇進数が増えていく。一場所で8勝以上すると小結に。小結は10勝以上で関脇に。関脇は二場所連続で8勝以上することで大関に。そして大関が二場所連続で12勝以上することでようやく横綱になれるのだ。
あっけなく倒せる相手もいれば、なかなかどうしてしぶとい相手、そして恐ろしく強い相手も出てくる。序盤、順調に白星を重ねたと思って油断していたら、その後はうまくいかずに連敗を重ねて、結局負け越し……ということもめちゃくちゃある。
これはある意味で、大相撲の醍醐味なのだ。最初のうちは順調だった力士が、場所の中盤あたりで失速していく。いや、8勝7敗なら現実的な目標だが、これが二桁白星になると大変だ。「とにかくこの取組は勝たなければならない」「何が何でも白星、白星、白星だ!」という気合いでボタン操作にも力が入ってしまい、あっけなく負け越し。何度コントローラーをぶん投げたことか。これはおそらく、現実の相撲でも同じことのはず。
子どもの頃はひたすらボタンをガチャガチャ連打していただけだった気がするが、操作が意外と複雑で、AボタンとBボタン、そして十字キーの組み合わせで「寄り」「押し」「吊り」など使い分ける必要がある。組み合っていないときにも「つっぱり」と「はたき」を使い分けたりと、頭を冷静にして戦わないといけなかったのだ。
そのほか、全盛期の千代大海のような押し相撲ができると思えば、相手を引いて体を入れ替えることも。実際の大相撲でもよく見かける決まり手のほかに、「すうぷれっくす(つっぱり3回+投げ)」や「ぶれえんばすたぁ(土俵際で相手の押しにあわせて吊り)」というハデな技もある。さらに相手の締め込みを解いてしまう「もろだし(押し3回+つっぱり+つり)」まであったり。対戦モードでは、こういう技を華麗に出してくる子どもが人気だった。
『つっぱり大相撲』は、千代の富士全盛期に発売されたソフト。したがって三役以上の登場力士も、当時の顔ぶれをモデルにしている。「百代富士」は言わずもがな千代の富士。「小目錦」はハワイ出身の超巨漢力士として知られた小錦、そして「満潮」は今現在渦中の人、自身もガイドラインに違反して相撲協会を退職した4代朝潮の錦島親方だ。
これらの力士は、さすがに強い。なかなか勝たせてもらえる相手ではない。だが、『つっぱり大相撲』では成績によってレベル的な「うでっぷし」が上がり、これによって攻撃力や体力ゲージが増えるという育成要素もあった。最初のうちは前頭下位の力士が勝ち越すのは難しいが、地道に勝ち星を増やしていくことで、いずれ上位陣に勝てるほどの実力がついてくる。
その様子は、まさに「本物の大相撲」そのもの。力と駆け引きを駆使した、奥深いゲームだった。