■理解不能な剛速球を生み出す魔球
前の2つの作品に比べると知名度はそれほど高くないかもしれないが、やはり巨人に入団した主人公を描いたアニメ『ミラクルジャイアンツ童夢くん』(原作:石ノ森章太郎)に登場した魔球も忘れられない。
同作の主人公・新城童夢は小学5年生ながらジャイアンツに入団。数々の「魔球」を武器に、実在するプロ野球選手やオリジナルのライバルたちと激闘を繰り広げる野球アニメだ。
当初は童夢くんは「東京ドーム」というジャイアンツのホームグラウンドの特性を活かした魔球を用いていたが、3つ目の魔球でついにどの球場でも使用できるとんでもない魔球を編み出す。その魔球の名は「サンダーバキュームボール」。
投球フォームに入り、高く上げた足を下に振り下ろす強烈な反動で真空状態の渦を作り出し、その渦の中に投げこむことでボールを加速させるという魔球。初お披露目した大洋ホエールズ戦ではMAX256キロという驚異的な球速を記録し、ライバルの強打者ドードから三振を奪っている。
ちなみにこの球速は『アストロ球団』(原作:遠崎史朗、作画:中島徳博)の宇野球一や、『緑山高校』(漫画:桑沢篤夫)の二階堂定春よりも速い。童夢くんの豪速球は捕手やアンパイアを吹き飛ばすほどの威力で、ジャイアンツの捕手たちがサンダーバキュームボールを捕球するために猛特訓するシーンも印象的だった。
さらに同作には「ハイパースピンブラックホールボール」という魔球も登場するが、こちらはボールに強烈なスピンを与えて小型のブラックホール?を生み出すという、これまたとんでもない代物。ブラックホールの吸引力にバットが吸い寄せられ、強制的に凡打にさせられるという魔球である。
今回紹介した3つの魔球は、いずれもジャイアンツをモチーフにした作品だったのは単なる偶然だが、時代背景を考えると面白い共通点だ。最近の野球漫画はリアル志向の設定やストーリーが大半なので、昭和時代のようなルール無用のハチャメチャな魔球は見る機会が少なくなってしまったのが少々残念でもある。
もちろん今回紹介した魔球はほんの一部なので、それぞれの心の中にインパクトあふれる魔球の記憶があることだろう。
それにしても大谷翔平選手みたいな野球漫画でもありえないようなスケールの大きなプレイヤーを目の当たりにすると、いつか本当に魔球を投げるピッチャーも現れるのでは……なんて夢を見てしまいそうだ。