■怪我人が絶えない波動球

 最後に紹介するのは、同作のパワーインフレを語るうえで欠かせない「波動球」。この技は渾身の力を込めて撃ち込むパワーショットのことで、ラケットのガットに穴を空けたり、打ち返した者の手首を負傷させる威力を持つ。そしてこの「波動球」を用いて、もっとも熱い試合が描かれたのがコミックス37巻に収録された、全国大会準決勝、青春学園・河村隆と四天宝寺・石田銀によるシングル戦だ。

 石田はスキンヘッドに巨漢、一人称は「ワシ」で、その見た目と試合前に相手に合掌をする修行僧のような仕草から「師範」と呼ばれるキャラクター。「波動球」を生み出した張本人で、そのパワーはケタ外れ。一発だけでも河村のラケットを弾いてしまうほどのパワーがあるが、「壱式波動球」「弐式波動球」……と技を繰り出すたびに威力を増していき、「参式波動球」を受けた河村は宙を舞いながら吐血してしまった。

「ワシの波動球は百八式まであるぞ」と本人が言うように、石田の波動球は108種類もあるようで、「拾弐式波動球」で河村は観客席まで吹き飛び、「弐拾壱式波動球」を食らった際には、観客席の最上段まで吹き飛ばされてしまう。

 だが「もう立たんでもええやんか!?」と相手チームの客席から心配の声が上がっても、河村は引かず。河村が白目をむいて、ほぼ意識の無い全身血だらけの状態で「最期の波動球」を撃ち込むと、これが思いのほか効果的で、このショットにより石田は腕を骨折し、棄権を申し出るという展開に。

 河村は勝利を手にしたが、肋骨3本にヒビ、大腿骨損傷、踵骨損傷、頸部挫傷、右足首の捻挫……とテニスの試合とは思えないほど負傷。この負傷と同じぐらいの衝撃が多くの読者の心にも残ったことだろう。

■返す球が全部アウトになったり、五感を奪われたり…

 この他にも手塚国光による、相手の返球をすべてアウトにしてしまうというチート技「手塚ファントム」。相手の視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚を試合中に奪っていく幸村精市の「五感剥奪」。身体能力をきわめて高めるものの、目と肌の色が赤くなり凶暴化する切原赤也の「悪魔化」などなど、テニスの試合中継ではお目にかかれない必殺技が数多く登場する『テニスの王子様』。

 どんなスゴ技が飛び出ても、それを「これがテニスだ」と周囲が受け入れて、当たり前のように試合が進んでいく世界観は少年漫画ならではの面白さ。これからも予想だにしない試合展開で我々を驚かせてほしい。

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