■「養成所の授業をもう一度受けたい」

――専門学校ではなく養成所だったのはなぜですか。

「早くお仕事がしたかったので、事務所直結の養成所に。倍率は高いですし、所属できる確率もぐんと下がりますが、そのくらい難しくないと意味ないのかなと。プロ・フィットはアニメに強いですし、養成所の費用も安かったので、いちばんいいなと思い選びました。専門学校という選択肢があるのもわかってはいましたけれど、専門学校の卒業生の多くはそこから養成所に通うと知り、僕にはそんな時間もお金もないと思ったので、最初から専門学校入学は考えていませんでした」

――養成所ではどんな授業を受けましたか。

「無声化、有声化、鼻濁音とは何なのかといった知識から、マイクワーク、セリフの発音、感情表現などの基礎を学びました。当時は、この授業はどういうふうに僕のお芝居の礎になっていくんだろうかと消化しきれない部分があったのですが、最近になって、あのとき養成所で教えてもらったことって、こういうことだったんだと思うことが増えましたね。たとえば、話者がもっとも伝えたいのはここなんだとようやく見極められるようになってきたし、セリフの持つ意味を考えられるようにもなってきました。ようやく、ですけどね。だからいまもう一度受けたいんですよ、養成所の授業を」

――何年経っても覚えているくらい、身になる授業だったのですね。

「はい。大切な授業だったんだなと、いまあらためて思います」

――初めてのお仕事についても教えてください。

「アニメミライ(若手アニメーター育成プロジェクト)の『音楽少女』という作品に、男子学生役で参加したのが最初です。主人公がすごく奇天烈な女の子なんですけど、その子が去った後の教室でざわつく生徒の一人を僕が務めました。セリフは『よくわからんがヤバい』のひと言です」

――仕事としての初アフレコは緊張しましたか。

「しました! 現場でどうやったのかは全然覚えていませんが、“養成所で学んだことを何も活かせなかったな”という記憶はしっかり残っています。結局のところ、活かし方がわからなかったんですよね。いまようやく理解し始めているくらいですから」

――最初はそういうものですよね。できないゆえに反省と緊張だけしてしまう。

「言われている意味もわからないし、わからないと伝える術もわからずただただオロオロしていました。そうしたら、主人公役の沼倉愛美さんがそっと教えてくださって、すごくうれしかったです。あと、同じ現場に斉藤壮馬さんもいらっしゃったんですけど、この2~3か月後に別の現場でまたお会いしたんです。きっと覚えていないだろうなと思いながらご挨拶したら、『前に「音楽少女」でお会いしましたよね』と言ってくださったのでびっくりしました。当時からめちゃくちゃ人気があったのに、こんな端くれ中の端くれにいるよくわからないヤツのことを覚えていてくださったんだと感動しましたし、“僕も壮馬さんくらい売れたとしても、セリフ一つのために頑張りに来た人を次に会うときも覚えていられる人になろう”と思いました。素敵な人たちに触れられた初めてのお仕事でした」

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